ヒューマンエラーはなぜ起きる?
ヒューマンエラー対策を考えるために、まずは、ヒューマンエラーがなぜ起こるのか、その原因を考えてみましょう。
【1】ヒューマンエラーの12分類
高木元也氏(独立行政法人労働安全衛生総合研究所)によれば、ヒューマンエラーの原因は下記の12に分けられます。
1~12について、実際にあなたが身近で経験した事例が思い浮かぶでしょうか?
「うっかりミス」とひと括りでまとめられてしまいがちな失敗も、突き詰めて見ると様々な原因があるのです。
では、1~12について、建設現場での災害事例を交えながら見ていきましょう。
分類1 無知、未経験、不慣れ
・作業に不慣れな作業員は、作業の危険がどこに潜んでいるかわからない
・熟練作業員でも、初めて行う作業や赴任まもない現場では、適切な危険予測ができない
<災害事例>
雇用当日に新規入場者教育を受けずに棟上げ作業に加わり、固定されていない足場板とともに墜落して死亡
分類2 危険軽視、慣れ
・危険とわかっているのに不安全な行動をとり、エラーを起こす
<災害事例>
3段目の足場組立作業中、「これくらいの高さであれば大丈夫」と安全帯を使用せず、バランスを崩して墜落
分類3 不注意】
・作業に集中していたために、その他のことに不注意になる
・作業内容が日々変わるため、作業に集中できず注意が散漫になる
<災害事例>
通電状態の電気工事で保護具を着用して作業中、保護具を着用していない臀部が充電部に接触して感電
分類4 連絡不足】
・安全指示が正しく伝わらず、エラーが発生する
・「必要な安全指示を出さない」「指示の内容があいまい」「的を射た指示でない」「作業員が指示を聞かない」「作業員が指示の内容を理解できない」など
<災害事例>
高圧線の近くで足場組中、電気作業以外の作業をしている作業者が誤って高圧線に接触して感電
分類5 集団欠陥】
・工期が厳しい場合などに、現場全体が「工期第一、安全第二」という雰囲気になり、エラーが発生する
<災害事例>
突貫工事で無理して足場の上下で作業を行い、上方の作業員が誤って落とした工具が下方の作業員に当たって負傷
分類6 近道・省略行動本能】
・面倒な手順を省略して効率的に行動することを優先した結果、不安全な行動をとってしまう
<災害事例>
資材置場へ移動するとき、安全通路より近道となる切梁上を渡り、誤って墜落
分類7 場面行動本能】
・瞬間的に注意が一点に集中し、まわりを見ずに行動してしまう本能
<災害事例>
脚立上で作業中、手に持っていたボードを落とすまいと身を乗り出してバランスを崩し、頭から墜落
分類8 パニック】
・非常に驚いたときや慌てたとき、脳は正常な働きをせず、冷静に適切な安全行動をとれなくなる
<災害事例>
コンクリートのはつり作業中、防振手袋をはめていたためブレーカーの停止ボタンがうまく押せずに作業員がパニックになり、ブレーカーが勝手に動いて被災
分類9 錯覚】
・合図や指示の見間違い・聞き間違い、思い込み
<災害事例>
足場板が無い場所を足場板が有ると思い込んで歩き、墜落
分類10 中高年の機能低下】
・身体能力の低下を自覚せずに作業し、エラーを起こす
<災害事例>
身体能力の低下を自覚せずに重い物を運ぶ作業を続けて腰に負担がかかり、腰痛になる
分類11 疲労等】
・人間は疲れるとエラーを起こしやすくなる
・長時間労働、夏の炎天下での作業など、過酷な条件下での作業では、作業員が疲労しやすい
<災害事例>
工事の納期の関係から疲労が蓄積していた作業員が、工事現場から会社に戻るために社用車を運転していたところ、黄色信号点滅の交差点で乗用車と出合い頭に衝突し負傷
分類12 単調作業等による意識低下】
・人間は単調な反復作業を続けると意識が低下し、エラーを起こしやすくなる
<災害事例>
大量の鉄筋を結束する作業中、バランスを崩してもたれかかった床面に差し筋があり、足に接触して負傷
【2】潜在原因にも目を向ける
ヒューマンエラーの12分類は、いわばヒューマンエラーの直接原因です。しかし、さらに「直接原因を引き起こした原因(潜在原因)」が存在する場合もあります。
例えば、「資材置場へ移動するとき、安全通路より近道となる切梁上を渡り、誤って墜落」という災害事例。直接原因は、近道・省略行動本能です。さらに、なぜ近道・省略行動本能によって不安全な行動をしたかを調べたところ「安全通路を使うと遠回り」、「工期がなく急いでいた」、「安全費が少なく、十分な数の安全通路が設置できなかった」といった潜在原因が明らかになったとします。
このような場合、直接原因に対しては「作業員の安全意識を向上する教育を増やす」といった対策が考えられます。潜在原因に対しては「安全通路の設置場所の見直し」、「作業員の人数を増やす」「安全費を増やす」といった対策が考えられます。
直接原因だけでなく潜在原因にも目を向けることで、より効果的なヒューマンエラー対策を見出すことができます。
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