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序章

1. 労働衛生の3管理、5管理

 職場で発生する熱中症は職業性疾病であり、労働災害事故です。事業者は職場での労働災害事故を防止する責任があり、様々な予防、或いは再発防止の施策を実行します。労働者は、事業者が行う労働災害防止策に従わなくてはなりません。

 ところで、労働安全を簡単に言うと労働による墜落、落下、巻き込まれ、感電等の事故による怪我防止を目的とする管理です。労働衛生は労働による暑熱、騒音、毒物・有害物、放射線などによる職業性疾病、加えてストレス・過労などによる精神的疾患などの体と心の健康障害の防止を目的とする管理です。

 労働による健康障害を予防するために、労働衛生管理の3管理、5管理という考え方があります。

 3管理とは作業環境管理、作業管理、健康管理です。これに労働衛生教育と労働衛生管理体制を加えて5管理と呼ばれます。労働衛生はこの3管理、5管理から総合的、複合的に改善を実行します。

図表1 労働衛生の3管理、5管理

2. 熱中症とは

 仕事中は筋肉で熱が生まれています(熱産生)。その時、汗の乾きにくい高温・多湿な環境(風通しの悪い炎天下、炉前など熱い物体の近く、蒸気が立ちこめた場所等)にいると、それに見合った熱の放散(熱放散)ができず、体温が上昇します(体温上昇)。

 ところが、仕事中は自分の都合で休憩を取ることは許されません。フルマラソンのような2時間を超える活動を何度も繰り返すこともあるでしょう。さらに、作業中は、運動服ではなく、通気性の悪い服装やマスクなどの保護具で身体を覆ったりして、汗の蒸発が妨げられて無効な発汗による脱水をおこしやすくなります。 

 ここで、汗を大量にかくと汗に含まれるナトリウム濃度が上昇して、ナトリウムが急激に失われます。この時、水だけを飲んでいると低ナトリウム血症を生じて、筋肉が収縮しやすくなりけいれんすることもあります(熱けいれん)。また、皮膚の血管が拡張して血圧が低下すると脳にまわる血流が減少して、めまい、失神、頭痛、嘔吐等の症状を来たします(熱失神)。

 二次的に、ミスの発生、生産性や業務の質の低下、事故等を招き、仕事の効率が低下します。


環境・条件と熱中症の症状   資料:熱中症環境保全マニュアル 環境省

図表2 環境・条件と熱中症の症状

やがて、脱水も加わり臓器への血流の悪い状態が続くと、筋肉、消化管、肝臓、腎臓、脳等の機能が低下します(熱疲労)。そして、暑さを我慢しながら仕事に集中していると、いつのまにか体温が上昇してしまい、ついに正常な判断ができなくなり、脳卒中のような突然の意識消失を招くのです(熱射病)。 

これらの病態には、個人差が大きく影響します。特に、暑さに慣れていない人、50歳代以上の人、皮下脂肪が多めの人、もともと心臓、脳、腎臓、甲状腺等に持病のある人、そして発熱や下痢等の症状のある人は、要注意です。

 職場における熱中症の発生を予防するには、暑くなった初日の取り組みが重要です。作業、環境、時間、服装の4つの要因の中から、現場で改善できるものを探して、直ちに対策を講じましょう。

 

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