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第4章 安全な作業方法に関する知識②

(1)災害事例研究

③ 薪にする桑の木を切断中、可搬型丸のこ盤で切創し死亡

【発生状況】

この災害は、可搬型丸のこ盤を使用して工場のストーブで使う薪にする桑の木を切断しているときに発生したものである。

災害発生当日、作業者Aは、前日に引き続き朝から、工場近隣の農家から運び込まれて工場の南側に積んであった、暖房用ストーブの薪にする桑の木を可搬型丸のこ盤で適当な長さに切断する作業に取りかかった。

切断作業に使用した丸のこ盤は、木工用の100V、4,700回転/分で、のこ刃の直径18.5cmのものであったが、燃料用の木材、不要となったパレットの切断に使用するためにAが会社に頼んで購入し、社内ではAだけが使用していたものである。

昼頃、外出先から戻った社長および専務は、屋外で作業をしているはずのAの姿が見えないので、探したところ、Aが丸のこ盤で切創を負い倒れているのを発見した。Aの近くには、切断途中の桑の木と高さ23cmの腰掛が転がっていたことから、Aは腰掛に座った姿勢で丸のこ盤を持ち、桑の木を切断中に、誤って切創を負ったものである。

Aの服装は、会社支給の作業服、安全靴、ゴムの滑り止め付きの手袋を着用していた。

Aが使用していた丸のこ盤には、刃の接触予防装置が取り付けられていたが、災害が発生したときには、刃の覆いが開放状態となるように紐で固定されていて、接触予防装置として機能しない状態となっていた。また、可搬型の丸のこ盤に係る使用要領や作業手順書は、当該丸のこ盤をAのみが使用していたことから会社として作成していなかった。

なお、Aが所属する会社では、従業員に対し、工具類の点検や安全な使用等についての安全衛生教育は実施していなかった。


【原因】

この災害の原因としては、次のことが考えられる。

1 可搬型丸のこ盤に取り付けられていた刃の接触予防装置を開放した状態で固定し、安全装置として機能しない状態で使用したため、作業中に刃に接触した。

2 可搬型丸のこ盤を使用する者がA一人に限定されていたこともあり、安全な取り扱い方法を盛り込んだ使用要領や作業手順書を作成していなかった。

3 会社では、従業員に対する安全衛生教育を実施していなかったため、工具類の作業開始前点検の実施や安全な取り扱いについて、従業員の認識は薄かった。


【再発防止対策】

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1 丸のこ盤には、刃の接触予防装置が取り付けられているので、作業者に正しい使用方法と作業開始前の点検の実施について十分教育する。特に、取り付けられている安全装置の機能を失わせて使用することのないよう周知徹底することが重要である。

2 使用者が限定されている工具類であっても、社内で使用されるものについては、例外なく点検方法や安全な取り扱いについての使用要領や作業手順書を整備し、その内容を従業員に周知させる。

3 今回の災害で使用されていた可搬型の丸のこ盤については、作業手順書等をもとに、その正しい使用方法、安全装置の適正な使用等について、安全衛生教育を従業員に対し実施する。


④シールド工事の残土搬出用ホッパー上部の改修作業中、携帯用丸のこで右大腿部を切る

【発生状況】

この災害は、シ-ルド工事の地上部分にある土砂搬出設備のホッパ-上方で、泥土飛散防止のための蓋を作る作業中に発生したものである。

工事は、第一次の掘進が終了し、第二次の掘進を開始するための準備の段階にあり、この準備作業はシールド内からベルトコンベヤ-で運ばれてきた残土がホッパ-に落下する際に泥土がはねて飛散することを防止するため、上部開口部のベルトコンベヤ-落下口および監視カメラ部分を除き全面に桟木を付けたコンパネを敷き、くぎを打って固定するというものであった。

被災者は、当日の午前中からホッパ-下部の清掃作業を行っていたが、午後2時頃終了したのでホッパ-上部に上がってきたところ、職長から蓋の隙間の部分を塞ぐよう指示された。

午後3時頃、職長とホッパー内にいた作業員がそこから作業用通路に出ようとしたとき、「わっ」という声が聞こえたので、声の方を見ると、被災者が左手で激しく出血している右大腿部を押さえ、右手に回転したままの携帯用丸のこを持ったままベルトコンベヤ-の端に立っていたのが発見された。

直ちに、被災者を救出し病院に移送したが午後4時6分右大腿部動脈切断による出血性ショックで死亡した。


【原因】

この災害の原因としては次のことが考えられる。

1 被災者が使用していた携帯用丸のこ盤の接触予防装置を確認したところ、移動する覆いの部分が固定覆いの中に入ったままであった。

2 楕円形のホッパ-開口部をコンパネで蓋をするには、コンパネを切断しながら寸法合わせを行っていく必要があるが、被災者はホッパ-上部にコンパネをのせ、右足はベルトコンベヤ-のVベルトカバ-の上にのせる等不安定な姿勢で作業を行っていた。

3 被災者は、前日はホッパ-の蓋の取付け作業を指示されていたが、当日は1次下請の現場代理人には指示されておらず、2次下請の職長が自己判断で指示の変更を行なうなど作業管理が徹底していなかった。

【再発防止対策】

この災害は、シ-ルド工事の地上部分にある土砂搬出設備のホッパ-上方で、泥土飛散防止のための蓋を作る作業中に発生したものであるが、同種災害の防止のためには次のような対策の徹底が必要である。

1 携帯用丸のこ使用に関する安全対策等を確実に行なうこと
(1)刃の接触予防装置の機能を作業開始前点検により確認し、異常があれば補修するか、使用を停止する。
(2)携帯用丸のこは、回転させたまま、あるいはスイッチに指をかけたまま持ち運ばない。
(3)携帯用丸のこを使用して切断作業を行う場合には、作業者の安全な足場を確保する。

2 作業管理を十分に行うこと
作業計画の変更を行う場合には、改めて作業の方法、作業手順、安全措置などについて検討し、関係作業者にも徹底する。

3 安全管理体制の整備等を行うこと
(1)元方事業者は、統括安全衛生責任者等を選出し、関係請負人の作業の調整を十分に行うことが重要である。
(2)人員配置は、作業員の技量を熟知している事業者が行う。
(3)危険な機械を取り扱う作業等については、作業マニュアルを作成し十分な教育訓練を行う。

 

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