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【第5章】第3節 災害事例⑤

3-3 災害事例:硫化水素中毒

1 タンク

内部清掃時における硫化水素中毒(紙・パルプ製造業:休業1名)


(1)発生状況

① 当該工場は3基の抄紙機を使用し、4種類の原料で、表層、表下層、中層、裏層からなる白板紙を製造していた。

② 災害発生当日は、定期点検のため5号抄紙機の運転を休止し、マシンチェスト(表下層の紙料を送る量を調整する内容量25m3のタンク)の清掃を行う予定であった。

③ 災害発生日の午前、被災者は現場の班長として薬品の点火状況などの巡視をはじめ、各種点検作業を行った。午後は、作業者に清掃パッキン等用具の取替作業を指示した後、清掃作業のため1人で5号マシンチェスト内に入った。

④ 同時に紙料係が災害発生現場近くでスクリーンの清掃を行っていたが、被災者の作業の様子を見るためにチェスト内をのぞいたところ、出入り口真下で頭部を南側にして仰向けで倒れている被災者を発見した。紙料係はブロアーでチェスト内を換気し、酸素濃度を測定し、安全を確認した後被災者をロープで引き上げ、救急車を要請し、病院へ搬送させた。

⑤ 災害発生当日の作業開始前の酸素濃度及び硫化水素濃度は不明であり、この日以前も測定は実施されていなかった。酸素欠乏危険作業主任者は3人選任されていたが、その職務である作業の直接指揮、作業環境測定等は遂行されていなかった。なお、被災者は酸素欠乏危険作業特別教育を修了していた。

⑥ 一方、作業手順は定められており、作業場内の掲示板には手順や注意事項等が示されていた。


(2)原因

① 作業の指揮、作業環境測定等酸素欠乏危険作業主任者の職務が履行されていなかった。

② 作業に伴う監視人の配置の配置等の措置が講じられていなかった。

③ 関係労働者の酸素欠乏危険作業に関する危険の意識が低かった。

④ 清掃の作業手順(換気、酸素濃度測定)が事前に行われていなかった。


(3)再発防止対策

① 酸素欠乏硫化水素危険作業主任者を選任し、次の職務を履行させること。

・作業の方法を決定し、作業を直接指揮する。

・作業開始前に酸素及び硫化水素濃度を測定し、異常の有無を確認する。

・作業開始前及び作業中は十分な換気を行う。

・空気呼吸器等保護具の使用状況を監視する。

② 常時作業状況を監視し、異常が認められたときには酸素欠乏硫化水素危険作業主任者へ通知する等異常を早期に把握するための措置を講じる。

③ 酸素欠乏硫化水素危険作業に関する作業手順書を作成し、関係労働者に周知徹底を図るとともに安全衛生教育等により労働者の危険に関する意識を高める。



2 養殖場

養殖場における硫化水素中毒(養殖業:死亡4名)


養殖場

(1)発生状況

① ひらめ養殖場で使用を中止していた海水受水槽(養殖槽に海水を送る前に一旦くみ上げる水槽)の改修工事を行うため、養殖場の作業者が受水槽の水位を海面水位まで下げた(海水をぬいた)後水槽内に入り、2本ある排水管のうち仕切弁の使用を停止していた方の仕切弁の取外しを行ったところ、排水管から水が噴き出し、同時に異臭がした。

② 作業者は、そのまましばらくの間作業を続けた後、受水槽へ出るためにはしごを昇り始めたところ、昇りきる直前で意識を失い受水槽内の海水中に転落し、水死した。

③ このことに気づいた作業者の同僚及び他2人が次々に受水槽に入り、全員が意識を失い水死した。


(3)原因

① 改修工事の対象である配水管は仕様を中止していたため、内部に海草、貝類等が流れ込み、滞留し、腐敗することで管内に硫化水素が発生していた。

② 配水管の仕切弁を取り外したときに、硫化水素の発生により圧力が高くなっていた管内から受水槽側へ硫化水素が噴出した。

③ 作業を行っていた作業者及び救助のために受水槽内に入った作業者は、酸素欠乏硫化水素中毒危険作業の特別教育を修了しておらず、硫化水素中毒防止に必要な知識を有していなかった。


(3)再発防止策

① 作業箇所の硫化水素濃度を10ppm以下に保つように、十分な能力を有する換気設備を設ける。

② あらかじめ硫化水素中毒防止について十分考慮された作業計画を作成し、当該作業計画に従って作業を行うよう徹底を図る。

③ 酸素欠乏硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから作業主任者を選任し、適正な作業方法の決定、作業者の指揮、硫化水素濃度等の測定、測定用具・換気装置・空気呼吸器などの器具・設備の点検、空気呼吸器等の使用状況の監視等の業務を確実に実施させる。

④ 作業者を作業に従事させる前に、硫化水素等の発生原因、硫化水素中毒等の症状、空気呼吸器の使用方法、事故の場合の退避及び救急蘇生の方法等についての特別教育を行う。

⑤ 救出時の二次災害を防止するため、空気呼吸器等の使用方法について、十分な教育訓練を実施する。



3 下水道

下水道における硫化水素中毒(清掃業:死亡3名、休業2名)


図2-1 肺の構造、肺胞、肺毛細血管

(1)発生状況

① 本災害は、運河の下を通る下水道管に通じるマンホール内で発生した。マンホールは運河の両側にあり、下水道管は運河の下を通すために伏せ越しの構造となっており、2本設置されていた。

② 伏せ越し管内に大量に付着した汚泥を除去するため、災害発生日の前日に1本の流出口を閉止し、ポンプで汚水の排出を行ったが、排出に時間がかかるため、当日は他の作業を行い、翌日午前9時から作業を開始した。

③ 作業は下流側の2つあるマンホールの内1つの蓋を開け、換気ダクトを中ほどまで下ろし、送風を行うと同時に排水し、約30分待機し、その後3名がマンホール内に入った。

④ 次に他の作業者が上流側にある2つのマンホールの蓋を開けた。このとき下流側のマンホール内にも2名の作業者が入った。最後に下流側の残ったマンホールの蓋を開けたところ、下流側のマンホールの最下部にいた2名が異常を訴え、中段まで上がってきた。

⑤ このため、中段にいた3名が外へ出ようとしたとき、下から霧のようなガスが立ち上り、先頭の1名を除く4名が倒れた。

⑥ その後救急隊による救出が行われたが、マンホール上で指揮をとっていた救急隊1名も病院に収容された。


(2)原因

① ポンプで排水したため水位が低下し、伏せ越し管の天井部に溜まっていた硫化水素がマンホール内に流出した。

② マンホール内作業の硫化水素の危険性について十分な認識がなかったため、作業開始前に作業箇所の事前調査、作業手順の打合せが十分行われていなかった。

③ 送風機を止めた状態でマンホール内に入った。

④ 排水作業が終了する前にマンホール内に入った。

⑤ 酸素欠乏危険場所での作業に必要な呼吸用保護具を使用しなかった。


(3)再発防止対策

① マンホール内に入る前に酸素濃度18%以上、硫化水素濃度10ppm以下となるよう十分換気を行う。

② マンホール内作業について事前に作業手順書を策定し、作業員全員に周知徹底する。

③ 酸素欠乏硫化水素危険作業主任者を選任し、作業を直接指揮させる。

④ 従事する作業者には酸素欠乏硫化水素中毒危険作業特別教育を実施する。

⑤ 呼吸用保護具を準備し、使用方法や緊急時に対処方法など十分な教育訓練を行う。


 

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