【第二章】補足1 騒音障害防止について
補足1 騒音障害防止について
聴力障害と騒音性難聴
(1)難聴とは
難聴とは音が聞こえにくい状態のことをいいます。難聴になると、日常生活に様々な不都合が生じます。
■ 必要な音が聞こえず、社会生活に影響を及ぼす
■ 危険を察知する能力が低下する
■ 家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなる
■ 自信がなくなる
■ 認知症発症のリスクを大きくする
■ 社会的に孤立し、うつ状態に陥ることもある
(2)難聴の種類
難聴は、異常のある部位の違いによって以下の3種類に分けられます。
■ 伝音(でんおん)難聴:外耳や中耳に異常がある状態
■ 感音(かんおん)難聴:内耳、蝸牛神経、脳に異常がある状態
■ 混合性難聴:伝音難聴と感音難聴が混在した状態
伝音難聴は、外耳や中耳の異常により音が内耳にうまく伝わらない状態です。外耳道炎や中耳炎、鼓膜穿孔(こまくせんこう)、耳硬化症(じこうかしょう)、外傷など様々な原因で起こります。薬物治療や手術により改善する場合が多いとされています。また、補聴器の使用も有効です。
感音難聴は、内耳や蝸牛神経、脳の異常によって音を感じにくくなった状態です。突発性難聴や騒音性難聴、加齢性難聴、先天性難聴などが該当します。
薬物治療や補聴器の使用が主な治療となりますが、人工内耳手術が有効なこともあります。
(3)騒音性難聴とは
騒音性難聴は、内耳以降の聴覚器官の損傷による感音性難聴です。長時間大きな音にさらされることで、有毛細胞が損傷してしまうことが主な原因です。有毛細胞は一度損傷すると再生することが困難なため、治療することが難しい難聴です。
騒音性難聴は、85dB(A)以上で、工事現場で働く人や鉄道関係者、航空関係者など、大きい音にさらされる職業の方に多く見られるので「職業性難聴」とも呼ばれます。また、爆発音や炸裂音(120~140dB(A)、ロックコンサートなどの強大音によって短時間で大きい音にさらされることによって起こる難聴は「音響性外傷」と呼ばれます。
(4)騒音性難聴はどんな時になりますか
騒音性難聴は低音成分よりも3000ヘルツ以上の高音成分の方が傷害を起こしやすく、初期には4000ヘルツが聞こえにくくなるという難聴を示します。音響性外傷では、音源に近い方の耳だけに起こることがありますが、騒音性難聴では、ほとんど両耳が同程度の難聴になります。
同じような騒音環境にいても個人差が大きく、難聴になる人とならない人がいます。難聴に加えて、耳鳴りを伴う場合があります。大きな音を聞くと音が割れて やかましく聴こえ、言葉の弁別(識別)も悪くなります。
身近なところでは、電車内で音楽を長時間聞く時には注意が必要です。電車内の騒音が70dBくらいだとすると、気づかないうちに100dB以上の音量で音楽を聴いてしまっている場合があります。80dB以上の音を長時間連続で聴いていると難聴が生じやすいと言われておりますので、電車内で音楽を聴くときは注意が必要です。どうしても音楽を聴きたい場合は、周りの環境騒音を最小限に防ぐことができるノイズキャンセリング機能がついたイヤホンやヘッドフォンがよいとされます。
(5)騒音性難聴の治療
急性に起こった音響性外傷では、ステロイドが有効と言われております。長期間の音響ばく露で生じた騒音性難聴の治療は難しいです。
騒音性難聴は予防することが大事です。騒音下に行く場合や、騒音下で仕事をする場合は遮音性の耳栓を使用したり、長時間連続の音響ばく露を避けたり、ときどき耳を休ませる、規則正しい睡眠や適度の運動などが大切と言われます。また、定期的な聴力検査で難聴が進行していないかを確認することも大切です。
(6)老人性難聴
老人性難聴とは、加齢によって耳(内耳)と脳(聴覚中枢)が障害されて聴こえにくくなっている状態です。しかも単純な老化ではなく、長い人生の中での各々の生活習慣、音響による負荷、耳毒性薬物の投与など影響により、内耳が障害されてきた結果も含まれます。
(7)老人性難聴の特徴
①高音域の低下が著しく中・低音域は比較的よく保たれている。
②原則として左右対称である。
③加齢とともに進行する。
④男女差がみられる。(男性の方が聴力低下は大きい。)
これは職場での騒音による影響と考えられます。
⑤単純な音は聴こえるが、ことばの聴き取り能力が低下する。
⑥難聴の程度は高年齢になるほど個人差が大きくなる。
(年齢にあまりこだわらないほうがよい。)
⑦難聴者はなぜか難聴を隠す傾向が強い。
(難聴であることを認めようとしない。)
⑧ゆっくり、区切って会話をすれば日常会話はだいたい可能である。
(むしろ耳元であまり大きな声で話すとかえって聴きづらくなる。)このような難聴は薬では治りません。補聴器を使う必要があります。 補聴器は早く使い始めるほど、聞こえの効果が早く得られます。
(8)聴取障害(マスキング)
騒音によるマスキングは必要な音が別の音によってかき消されることを言います。騒音作業現場ではマスキングにより話し声や危険を知らせる合図など、意思の疎通や伝達が阻害され孤立感や事故を引き起こしやすくなります。
すでに一定の聴力低下や耳栓等の保護具を着用している場合は注意が必要です。通常の距離で会話が出来るのは騒音レベルが60~70dB(A)以下です。
(9)身体的影響
騒音を感じることによって、血中アドレナリン濃度が上昇します。
そもそもアドレナリンとは、動物が敵に襲われて身を守らなくてはならない時、あるいは獲物を捕食する必要に迫られた時に分泌され、状況に対応するのを助ける物質です。
アドレナリンが分泌されると、心拍数が増加、血圧上昇、血糖値が上昇したり、気管支が拡張するといった作用がもたらされます。
また、胃腸障害のリスクも報告されています。
補足2 日振動ばく露量A(8)の対数表について
当日に使用する対象振動工具が1種類だけの場合、対数表を使用することにより比較的簡単に使用可能時間や対策の程度などの目安を知ることができます。
縦軸の3軸合成値を決めて横軸の使用予定(=振動ばく露)時間を見ていき、その交点を限界値又は対策値と比較して判断します。
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