6-7 作業環境の改善(労働衛生管理)
建設業の場合ケガによる死傷者数が多いこと、高所作業や大型重機を使用する作業など見るからにリスクの大きい作業が多いことなどから、「安全衛生」のうち「安全」の方に注目が集まる傾向がありますが、健康状態を保つことも非常に重要です。
例えば、粉じんや騒音・振動工具による災害、熱中症や酸素欠乏症・有機溶剤中毒といった、身近な作業における労働衛生に関する問題も決して軽視できません。
これらは作業中のケガと違って、日々の作業では体の変化に気が付かないものもたくさんありますが、長い年月を掛けて身体を蝕む(慢性化する)という怖さがあります。少しずつ体に負担がかかって慢性化した疾病(じん肺や有機溶剤中毒・腰痛など)が、元通りに回復することはほとんどないのです。
職長として、部下の健康を損ねることなく仕事を進めていくということも大きな職責ですので、労働衛生に対する考え方や対応方法を確認しておく必要があります。
(1)労働衛生の基本的対策(環境改善と環境条件の保持)
建設工事の特徴として屋外作業が多く、単品受注生産・現地生産という条件も重なることから、さまざまな環境の中で作業することが避けられません。にもかかわらず、最近環境重視の現場も増えてきてはいるものの、建設業全体としての労働衛生管理活動は、他産業に比べて活発とは言えません。
健康で働きやすい快適な作業環境にしていくことが、作業者の労働意欲を高め、健康管理を行う上でも重要なことです。
建設事業者はこういった現状を踏まえ、工事に従事する作業者の健康の確保と増進を図るため、現場の労働環境条件を整備し可能な限り危険有害要因を排除していかなければなりません。
また、現場における具体的な健康確保対策は、元方事業者と作業者を直接雇用する関係請負人が密接な連携のもとに衛生管理体制を明確にし、「労働衛生の三管理(作業環境管理、作業管理、健康管理)」を計画的に実施することが必要です。
「労働衛生の三管理」
イ.作業環境管理
作業環境中の種々の有害因子の状態を把握・除去・低減して、良好な状態を確保するもので、作業者の健康障害を防止するための根本的な対策である。
ロ.作業管理
作業環境を汚染しないような作業方法や、有害要因のばく露防止や作業負荷を軽減するような作業方法を定め、健康障害の防止を図る。
ハ.健康管理
作業者個人の健康状態を定期的にチェックし、異常を早期発見して進行・悪化を防止するとともに、異常の発生原因と作業環境管理・作業管理の因果関係を調査し、必要な対策を講ずる。
(2)三管理の具体的な方法
①作業環境の把握・改善
職長は、安衛法の諸規定や「主な職業性疾病」などの事項を検討し、作業環境を把握したうえで、問題があればまず環境そのものを改善できるかどうか検討し、可能であれば速やかに改善するよう努めなければなりません。
例)直射日光を浴びるうえ風もないためWBGTの値が高く、熱中症のおそれがある。
➡直射日光を防ぐため衝立を設けたうえで、送風する。
※WBGT:湿球黒球温度:WetBulbGlobeTemperature ~ 人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標
まず最初に、「環境に問題があるなら環境自体を改善できないか」と考えることが大切です。上の例では、衝立を設けることにより日光を防いでいます。日陰で出来る作業なら、場所を変えることも考えられます。環境を改善するというと大変大がかりになる場合もありますが、ちょっとした工夫で改善できるケースもあります。根本的な要因を特定し、改善可能かどうか考えることが大切です。
なお、改善内容について職長に判断する権限がない場合は、上司に報告し判断を仰ぐ必要があります。
②環境条件の保持
建設工事現場は、工程の進捗状況や天候などによる作業環境への影響が大きく、変化が激しい場合が多いという特徴があります。このため、職長は、次の事項に留意して、良好な作業環境の維持に努めることが必要です。
イ.環境条件、機械・設備、作業方法、保護具などの日常点検の実施
ロ.作業場所、休憩所などの整理・整頓・清掃・清潔(4S)の徹底
ハ.工事施工中の近隣に対する建設公害についての十分な配慮
③快適職場づくり
建設工事現場は高所作業、重筋作業などが多く、作業者にとって作業環境が厳しい職場と言えますが、最近は建設現場で活躍する高年齢者や女性が増加傾向にあることから、「やさしく快適な職場づくり」がより求められるようになっています。
職長はこれらを踏まえ、作業者全員の参加で「快適な職場づくり」に取り組むことが必要です。
なお、快適な職場づくりは、安衛法第71条の2の規定により事業者の努力義務とされており、厚生労働大臣による「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(快適職場指針)が公表されています。事業者はこの快適職場指針を踏まえ、自主的に具体的な目標を定めたうえで、計画的に実現に向かって努力することが求められています。
具体的には以下のような例があります。(上記指針より抜粋)
・空気環境、温熱条件、照度、騒音、作業空間や通路等、作業環境の改善
・労働者の心身の負担が軽減されるよう作業方法の改善
・休憩室・シャワー室等の心身の疲労の回復を図るための施設の設置・整備
・疲労やストレス等に関し、相談に応じることができるよう相談室等の確保
・運動施設の設置、緑地を設ける等の環境整備
・給湯設備や談話室等の確保
・洗面所、トイレ等の清潔で使いやすい状態となるような維持管理
④健康管理
イ.日常の健康管理(職長及び作業者)
作業者の健康状態によっては、作業現場での「不安全行動」や事故・災害に直結することがあります。これを防ぐためには、職長自身が作業開始前に、作業者一人ひとりの健康状態(顔色・目・動作など)を観察・問い掛けしたり、安全ミーティングの際に健康状態を自己チェック(健康KY・ヘルスチェックなど)させて確認するなど、適切な管理や指導を行うことが非常に大切です。
ロ.健康診断
事業者は、健康診断(一般健康診断、特殊健康診断など)の実施、再検査等事後措置の履行、その結果の通知などの義務が課されており、労働者にも各種健康診断を受診する義務と健康を保持する努力義務が定められています(安衛法第66条)。
また、事業者は特定の有害業務(安衛則第45条)に従事する作業者に対して、雇い入れの時やその業務への配置換えの際、および六カ月以内ごとに1回特殊健康診断を行うよう義務付けられています。
ハ.健康診断実施後の措置
労働者の健康管理には、こうした健康診断の結果に基づく事後措置や保健指導の実施が必要な場合があります。このような健康診断実施後の措置に関しては、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」が公表されています(平成8年10月1日健康診断結果措置指針公示第1号改正H20.1.31)。
勿論、作業者の自主的な健康管理(セルフケアー)が求められるのは当然ですし、必要な事項については事業者に届け出なければいけません。
地域・講習・人数に合わせてすぐに予約可能
講習会を予約する
このページをシェアする
講習会をお探しですか?