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9-1 ヒューマンファクター(人間の行動特性)とヒューマンエラー

(1)ヒューマンファクター(人間の行動特性)とは

ヒューマンファクターとは、「錯覚」「不注意」「近道行為」「省略行為」の4つに代表される人間の行動特性です。

このヒューマンファクターに関連し、異常な状態、事故、災害等意図しない(特に、不都合な)結果をもたらす行動をヒューマンエラーといいます。

人間の行動特性の具体的事例

(2)ヒューマンエラー

① 人間の情報処理の仕組み

人間が受け取るさまざまな情報は五感で感じて脳に情報として送られますが、これを、「情報の認知・確認」といいます。その情報を脳で処理し行動を決定して、手足など体に指示を送ることを「情報の判断・決定」といいます。その結果、身体の「操作・動作」が行われます。

人間の情報処理

②ヒューマンエラー

人間は受け取った情報を処理する際に「知識として記憶し、蓄積しているもの」「学習したもの」「行動したもの」などを基礎として、情報を正しく提供・伝達していれば正常であって、ミスやエラーは発生しないといわれています。

それらが「内的要因」や「外的要因」によって正しく提供・伝達されなかったときに、さまざまな人間のミスやエラー(ヒューマンエラー)が生じるということです。


③ヒューマンエラーの発生要因

以下は、労働災害におけるヒユーマンエラーの原因の分類例であり、「どうしてこんな行動をしたのか?」に対する理由ということです。

1.【危険軽視、慣れ】危険と分かっているのに不安全な行動をとり、エラーを起こす。

2.【不注意】作業に集中していたために、その他のことに不注意になる。作業内容が日々変わるため、作業に集中できず注意が散漫になる。

3.【無知・未経験・不慣れ】作業に不慣れな作業者は、作業の危険がどこに潜んでいるのかがわからない。熟練作業者でも、初めて行う作業や新規入場の現場では適切な危険予測ができない。

4.【近道・省略行動本能】面倒な手順を省略して効率的に行動することを優先した結果、不安全な行動をとってしまう。

5.【中高年の機能低下】身体能力の低下を自覚せずに作業し、エラーを起こす。

6.【錯覚】合図や指示の見間違い・聞き間違い、思い込み。

7.【場面行動本能】瞬間的に注意が一点に集中し、周りを見ずに行動してしまう。

8.【パニック】非常に驚いたときやあわてたとき脳は正常な働きをせず、冷静に適切な安全行動をとれなくなる。

9.【連絡不足】安全指示が正しく伝わらず、エラーが発生する。「必要な安全指示を出さない」「指示の内容があいまい」「的を射た指示でない」「作業員が指示を聞かない」「作業員が指示の内容を理解できない」など。

10.【疲労等】人間は疲れるとエラーを起こしやすくなる。長時間労働、夏の炎天下での作業など、過酷な条件下での作業では、作業員が疲労しやすい。

11.【単調作業等による意識低下】人間は単調な反復作業を続けると意識が低下し、エラーを起こしやすくなる。

12.【集団欠陥】工期が厳しい場合などに、現場全体が「工期優先」という雰囲気になりエラーが発生する。日常的にルール違反を容認するなど、「安全第一」「ルール遵守」といった基本が欠落している。


こうしてみると,「うっかりミス」とひとくくりでまとめられてしまいがちな失敗にも、さまざまな原因があることが分かります。


④ヒューマンエラーの防止

「建設現場は安全対策が難しい」といわれています。

その理由として、建設現場には次のような特徴(特性)が挙げられます。

1. 作業内容が日々変化する

2. 多業種の専門工事業者が入場している

3. 単品受注生産である

4. 雇用期間が短い


つまり、さまざまな事業者と作業員が(2.4)、同じ場所に同じ条件で同じ物をつくることのない一度きりの現場で(3)、さまざまな作業をする(1)のが建設現場ということです。このため、安全対策を講ずるうえで適切な安全設備の設置・作業のマニュアル化に限界がある、事業者や作業員間の連絡・調整が難しい、作業員への継続的な教育・訓練が難しい、といった特徴があることは否定できません。

しかし、これらの特徴は、逆に建設現場での安全対策を練るときのポイントを示してくれていると考えると、安全設備が設置できない危険箇所については不安全行動をしないよう作業員間で声をかけ合う、事業者や作業員間の連絡・調整に多くの時間をかけたり方法を工夫したりする、といった対策も浮かんできます。


なお、具体的なヒューマンエラーを防ぐ対策としては、大きく次のようなものがあるとされています。

1)ヒューマンエラーが発生しても大丈夫なような安全設備面の対策

建設現場は適切な安全設備の設置に限界がありますが、「人は誰でも間違える」ことを前提として可能なかぎり適切な安全設備を設置することは、非常に重要かつ有効な対策と考えられます。

ヒューマンエラーの12分類のうち、特に不注意・近道本能行動・場面行動本能・パニック・錯覚・単調作業による意識低下は、「瞬間的に注意力が適切に働かない」状態ですから、「最終的な安全確保を人の注意力に頼らない」ような安全設備を整えることが効果的かつ必要な対策となります。

具体的な対策例としては、墜落制止用器具・墜落防止ネット・墜落防止手すり・各種保護具の着用・差し筋の養生キャップや曲げ加工・各種リミット装置(安全弁・ガス警報器・漏電遮断器・重機の接触防止措置等)といったものが挙げられます。


2)ヒューマンエラーが発生しないような現場の安全管理活動の充実 

適切な安全設備の設置や作業のマニュアル化が、他の業種に比較して困難なことが建設現場の特徴です。このため、「作業員一人ひとりがヒューマンエラーを起こさない」ために、より一層現場の安全管理活動を充実させることが非常に重要な対策となります。

中でも未経験・危険軽視・連絡不足・集団欠陥・中高年の機能低下・疲労等に起因するヒューマンエラーは、「あらかじめエラーが発生しやすい状況が作業員に内在している」といえ、災害にまで至ってしまう危険な状況をつくらない、もしくは早期に発見し改善できるような安全管理活動が求められます。従って、「集団の力をうまく活用する」という視点も大切になります。


ヒユーマンエラーを防ぐための具体的な安全管理活動の例としては、次のものが挙げられます。

・作業の技能教育・訓練

・安全衛生に関する教育・訓練

・ヒヤリハットの蓄積・共有

・KY活動(危険予知活動)

・パトロール

・危険作業はペア・コンビで行う

・現場での声のかけ合い(危険を指摘し合うなど)

・職長や安全衛生責任者等の教育・訓練

・明確な安全指示(誰が何をするのか)

このほかにも、それぞれの事業所・現場の状況に応じた活動を工夫して実践することが大切です。


3)エラープルーフ化

人間工学の日本における先駆的な研究者である故橋本邦衛博士(1912-1981)は、人間の意識レベルには5段階があり、作業中はフェーズⅢの状態が望ましいが持続することが難しく、現実にはエラーが起こりやすいとされるフェーズⅡがほとんどで、場合によってはⅠもⅣもありうるということを提唱され、今でも安全工学分野の基本的な考え方に大きな影響を与えています。

意識レベルの5段階

ここで問題になるのは、人間の意識レベルをコントロールすることができるのかということです。

例えば、危険予知活動はその過程で不適切な行動に至る心理的要素を明らかにすることを経て、より正しい行動を確認し不安全行動の防止を図るものであり、指差呼称などで注意力を喚起するといった効果が期待されます。

しかしこれは一時的・断片的なものであり、終日にわたりフェーズⅢの「正常・明晰」な状態を維持するものではありません。


そこで、近年製造業をはじめ様々な業種でエラープルーフ化という手法が導入されるようになってきました。

これは、人にとって意識レベルの変動は避けられないものとしてとらえ、作業システムを構成する人以外の要素、すなわち機器、操作手順、書類等について「人間をエラーに導くまずい作業方法を、人間に合うように改善する」ことに主眼を置いた取り組みです。

エラー発生の一因 エラープルーフ化

ただし、近道行為や省略行為など、意図的な行為が原因のミスについては、エラープルーフ化というより、まず教育などの管理的対策を講じる必要があります。もちろん、併せて作業内容や現場環境の改善を実施することも重要です。

 

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