【第1章】第2節 熱中症とは(2)
4. 体液の調節
暑い時には、自律神経を介して末梢血管が拡張します。そのため皮膚に多くの血液が分布し、外気への「熱伝導」による体温低下を図ることができます。
また汗をたくさんかけば、「汗の蒸発」に伴って熱が奪われますから、体温の低下に役立ちます。汗は体にある水分を原料にして皮膚の表面に分泌されます。このメカニズムも自律神経の働きによります。
このように私たちの体内で血液の分布が変化し、また汗によって体から水分や塩分(ナトリウムなど)が失われるなどの状態に対して、私たちの体が適切に対処できなければ、筋肉のこむらがえりや失神(いわゆる脳貧血:脳への血流が一時的に滞る現象)を起こします。そして、熱の産生と熱の放散とのバランスが崩れてしまえば、体温が著しく上昇します。このような状態が熱中症です。
熱中症は死に至る恐れのある病態ですが、適切な予防法を知っていれば防ぐことができます。また、適切な応急処置により救命することもできます。しかし、わが国における熱中症の現状をみる限り、熱中症の知識が十分に普及しているとはいえないでしょう。
人間の体重の50から60%は水分で占められ、体液は常に交換されています。体内の老廃物を尿中に排泄するのには400から500 ml/日の尿が必要で、通常の生活においては1,000ml/日以上の尿を排泄しています。また人間が吐く息は水蒸気が多く含まれる他、肌では感じない程度の発汗があります。従って、一般生活において 、人間は1,000から1,500 ml/日の水分を失うことになり、最低700 ml/日程度の水分を摂取する必要があります。
人間は体液の調節に関して心臓や頸動脈で血液量の増減を管理し、尿の産生量と口渇感の強さを調節しています。しかし人間は脱水状態が軽い時は口渇感を感じることができません。また発汗などにより体内のナトリウムの量が減っても、脱水状態が軽く、血液中のナトリウムイオンの濃度が変化していない時は、水分及びナトリウム不足を感じることができません。実際に運動や作業の後に口渇感に任せて水分を摂取させていても、脱水状態が完全に回復しないことが分かっています。このような場合であっても水分やナトリウムの調節よりも体温の調節の方が優先されますので、 必要な発汗は続くことになります。
5. 熱中症が発生する仕組みと症状
(1) 熱中症の発生の背景
熱中症と呼ばれる病態には、体温はほぼ正常に維持されていますが、体表面の血流や発汗が増加している場合と体温がすでに上昇してしまっている場合があります。 体表面の血管が拡張したり、脱水状態となったりした場合には血圧が低下して、脳への血液量が減少します。
資料:熱中症環境保全マニュアル2014 厚労省(2) それぞれの熱中症のさまざまな症状
脳の機能が異常になった時の症状は、一般的なものとして、頭痛、吐き気、めまい、立ちくらみなどがありますが、実際には顔が赤く火照ったようになって、普段と異なる動作をしてみたり、反応が鈍くなったりするなど、様々な症状を呈することがあります。熱中症の概要の項でも簡単に説明しましたが、このような状態を「熱失神」や「熱虚脱」などと呼びます。
また大量に汗をかき水分とナトリウムを失った後、水分のみを補充した場合など、血液中のナトリウム濃度が低下しすぎると、それが筋肉の収縮を誘発して、工具を握っている手を自分では開くことができなくなったり、手足がつったりすることがあります。このような状態を「熱けいれん」と呼びます。
さらに体内の水分が慢性的に不足して、消化液の分泌が不十分となり、消化管自体の血流が不足して胃腸障害や食欲不振が生じたり、さらに筋肉が壊れるなどして、筋力の低下や疲労感を生じたりする状態に陥ることがあります。このような状態を「熱疲労」や、「熱疲弊」などとよぶことがあります。
体温が上昇して40℃を超え、脳の視床下部に存在する体温の中枢にまで異常をきたした状態を「熱射病」と呼びます。このような場合には昏睡、痙攣(ケイレン)、ショックなどの重症な症状が認められるようになり生命の危機に陥ります。救命できても脳の障害が残ることがあります。このような状態が認められるときには一刻も早く医療機関に搬送して救命処置を施す必要があります。また、これらの熱中症の症状は突然に重篤な症状として現れたりすることもあります。
6. 【理解の確認と討議】
【理解の確認】
- 熱中症が発生する時期はいつでしょう? おおよそ、何月から何月までですか?
発生しやすい時間帯(何時から何時)はいつですか? - 熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病は、それぞれどのような症状になりますか?
どのような対処が必要ですか? - 熱中症が発生しやすい職場の特徴の項目を挙げてください。
【討議】
- 関係者と自分たちの職場は、熱中症が発生しやすいか、どのような状況の時に発症するか等を話し合ってください。
受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています
このページをシェアする
講習会をお探しですか?