【第3章】第2節 緊急時の救急措置
熱中症を疑わせる症状が現われた場合は、救急処置として涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩分の摂取等を行います。また、必要に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせます。
1. 作業現場での応急処置
作業現場での応急処置について、下図に示す通りです。
まずは意識を確認します。例えば、「今日は何月何日ですか」、「今は何時頃ですか」、「あなたの名前は何ですか」、「私は誰ですか」、「ここはどこですか」などの質問をきちっとした“受け答え”ができれば「意識は清明であると」と判断できます。一つでも明確に答えられなければ「意識がおかしい」と判断し、重篤なⅢ度の熱中症として扱います。 この場合には救急隊を要請します。
意識が明らかであっても、救急隊を呼んだ場合でも、まずは①涼しい場所に移し、②脱衣と冷却等を開始します。 具体的には以下の①と②のようにします。
① 暑い現場から涼しい日陰か、 冷房が効いている部屋などへ移します。
② 衣服を脱がせて、体から熱の放散を助けます。
加えて、露出させた皮膚・体に水をかけ、うちわ、扇風機の風に当てたりします。
氷嚢(ひょうのう)などがあれば、それを首(頸部)、脇の下、足の付け根に当てます。
そこには太い血管が皮膚の表面近くに走っており、血液を冷やす、すなわち全身の冷却に効果的であるからです。
寝かせた状態では下肢を持ち上げて下肢に分布する血液をより多く体の”内部”にはあつめます。意識が明らかでない時には、救急隊が到着する前から早々にこれらの方法を開始する必要があります。
意識が明らかな場合で、上記の①②を行いながら、水分を自力で摂取できるかどうかを判断します。ここで、もし嘔気(おうき:嘔吐したい気分)があったり,また実際に胃の内容物を吐いたりしている場合には「水分を摂取できない」と判断します。この場合には医療機関での点滴による水分の補給を考える必要があります。ここで救急対応要請を検討します。
嘔気、嘔吐がなく、自力で水分を摂取できないなら、水分を与えます。具体的な方法は次の③に示す通りです。
③ 冷たい麦茶やジュース、氷水などを与えます
作業をしていた状況では水分のみならず、塩分も失われているとみなして、塩分を含んだスポーツドリンクや経口補給水を与えるのが簡便な方法ですが、500ミリリットルの水に食塩ないし市販の塩化ナトリウム錠剤(1錠0.5 g) で塩水を作って与えても構いません。
ここでは誰かが付き添って、患者を見守ることが重要です。もし体調が回復しない悪化するなどがあればやはり医療機関に運びます。医療機関への搬送のために救急車を呼ぶことについて躊躇するには及びません。少しでもおかしい、腑に落ちない、と感じれば救急隊を要請すべきです。
また水分を摂取させた後に嘔吐することもないとは言えません。そのような場合には体と顔を横に向けて嘔吐した水分などが、気道(喉から気管)に流れ込む(誤嚥する)ことがないように注意する必要あります。なお救急処置については、表:「熱中症の症状と分類」を参考に判断することが必要です。
資料 職場における熱中症予防対策マニュアル※ 上記以外にも体調が悪化するなどの場合には、必要に応じて、救急隊を要請するなどにより、医療機関へ搬送することが必要であること。
2. 症状と病院での救急処置
医療機関での重症度別治療内容を比較すると、表によれば医療機関ではⅠ度からⅡ度、Ⅲ度となるにしたがって、より濃厚な治療が行われていることがわかります。
また、東京都医師会の調査(平成14年7月から8月8日)、日本救急医学会の全国調査(平成18年6月から8月)によれば熱中症の患者が病院に10人運ばれたとすれば5、6人がⅠ度、2、3人がⅡ度でⅢ度は1、2人の割合でした。
下の図には主たる症状のそれぞれと入院したものと帰宅できた者が示されていますが、救急外来での治療が開始されて、その後の回復の状態によってはⅡ度(倦怠・脱力感)でも帰宅できたものがあることがわかります。
ただしⅢ度(意識障害)はそれ自体が入院の大きな理由となっていることも分かります。
状態が重篤な場合に、病院では直ちに急速な点滴と体の冷却を開始します。水やアルコールで湿らせたガーゼを体表において扇風機であおいだり、胃や膀胱に冷たい生理食塩水を入れては出すことを繰り返したりします。
このような速やかな冷却が極めて肝要です。加えて肝不全、腎不全などへの治療も同時に進め、多くの場合に集中治療しての治療が主体となります。
3. 【理解の確認と討議】
【理解の確認】
- どのような症状だと、熱中症が疑われますか? その確認項目とその方法を挙げてください。
- 熱中症の作業者の応急措置は、何をどのように行いますか?
【討議】
- 自分たちの職場の熱中症応急処置のマニュアル内容を協議しましょう。
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