【終 章】危険予知の目指すもの
危険予知の目指すもの
KYTとは、危険を危険として気づく感受性をミーティングで鋭くし、危険情報を共有し合い、それをミーティングで解決していく中で問題解決能力を向上し、行動の要所要所で指差し呼称を行うことにより集中力を高め、チームワークで実践への意欲を強めるための訓練手法で、次の効果が期待できます。
(1)「知っている」のに「できる」のに
知識もある。技能もある。当然対策も知っているし、できるはずです。それなのにやらなかった。そのために事故が起こっています。
知っているのに、出来るのになぜやらなかったか。これについて3つケースがあります。
①感受性が鈍く、危険を危険と気づかず、やらなかった。-感受性を鋭くする
②ついウッカリして、ボンヤリしていて、やらなかった。-集中力を高める
③はじめから「ヤル気がない」ので、やらなかった。-実践への意欲を高める
(2)感受性を鋭くする
KYTは、危ないことを危ないと感じる感覚、危険に対する感受性を鋭くします。危険な状況があるとき、「危ないな」、「なんとなく変だな」、「どうも気になる」などと虫が知らせる、ピンと気づく。この感覚が感受性です。
毎日毎日、要所要所で、さっと短時間のKYTを繰返し行うことによって危険を危険と感じる感受性を鋭く保つことができます。
(3)集中力を高める
KYTは、限られた時間内で、イラストシートなどを使って職場や作業の危険を見つけ出したり、対策を考え出す必要があることから、その過程で集中力を養うことができます。
さらに、KYTは、行動の要所要所で、指差し呼称や指差し唱和を行うことによって集中力を高めてウッカリ、ボンヤリ、不注意を防ぎます。
行動の要所要所とは、「危険のポイント」です。危険のポイントをしぼり込んで、そこで鋭く切り込む指差し呼称をして集中力を高め、人間の行動特性(錯覚、不注意、近道反応、省略行為)に基づくヒューマンエラー事故を防ごうというのがKYTの目指すものです。
(4)問題解決能力を向上させる
KYTは、気づいた危険に対し具体的で実行可能な対策を出し合い、さらに重点実施項目の絞り込みを行う中で、危険に対する問題解決能力を向上させます。
(5)実践への意欲を強める
KYTは、危険に対するホンネの話し合いのなかで、ヤロウ・ヤルゾの実践活動への意気込みを強めます。
KYTも指差し呼称も「やらされる」活動でなく、自ら進んで「ヤロウ・ヤルゾ」で実践されて、はじめて有効なものになります。ごく短時間の本音の話し合いで、実践につながる強い合意を生むのが、4ラウンド法をベースにしたKYTなのです。
(6)職場風土づくり
KYTは、最終的には「先取り的」、「参加的」な明るい生き生きとした職場風土づくりを目指すKY活動の基本訓練です。
KYTで留意すべき7項目
①KYTに入る前にまず大前提があります。それは労働安全衛生法令や関連法令で定められている安全衛生基準や設備基準の順守です。
さらに、フェール・セーフやフール・プルーフによる機械設備の本質安全化や安全衛生教育の実施であり、その土台の上にKYTがあります。
KYT先にありきでは本末転倒となってしまいます。
②宇宙飛行士の訓練は、まず正常時の訓練として、トラブルのない手順を繰り返し覚えます。次に、正常時の訓練を基本にして、いろいろな故障や事故をシミュレーターで発生させ、それを地上と連絡を取りながら解決させます。
さらにシミュレーターを使っていま起きていることが現実なのか訓練なのかわからなくなるくらい繰り返し訓練します。
KYTもまず「作業標準や作業手順で仕事の基本をしっかりマスターする」
次に「ヒヤリハット事例等で安全先取りのKYTを行い、危険(問題)を解決していきます。さらに、「KYTを繰り返して安全作業を習慣づける」の順で行われなければなりません。そして、作業標準や作業手順にKYTでの気づきが生かされ、それが混然一体となって実践されることが最も望ましいことです。
③KYTではまず、イラストシートを見て「危ない」と感じるところからすべてが始まります。固定観念によりKYTシートを見てすぐに対策樹立という考え方をひとまず除外し、自分がイラストの中の作業者になりきり、自分とケガを結びつける危険要因(対策ではない)と現象(事故の型)にのみ注目します。
これにより、固定観念で対策を決めつけるという影響力を排除できるでしょう。
④一般に、表現がまずいのは言葉の使い方がまずいという以外にその内容に誤りがある場合が多く、正確で秩序ある表現の中から正確で秩序ある思考が生まれるといわれます。とはいえ、あまりに表現に拘り過ぎるとチーム内から活発な意見が出にくくなります。アリアリと具体的に表現することを第一義にして意見の出やすい明るくワイワイとリラックスした雰囲気を作ってください。
⑤KYTの狙いは危険に対する感受性を鋭くすることにあります。そのためには具体的に危険要因を出し合う第1ラウンドが決定的に重要になります。
第2ラウンドで危険のポイントとして絞り込まれなかった項目も、具体的に共有することにより、潜在意識に植え付けられ、それを回避する行動につながります。また、自分の弱点だと思う項目は自分でマークし、対策など不安があるのなら仲間に確認し、日常の作業にKYTで磨いた感性を生かしたいものです。
⑥KYTの目的はイラストシートを使って職場の仕事仲間で自主的に話し合い、合意して、日常の作業のかかえる危険(問題)を真に実感し、その対策を心から納得することにより、よりよい安全行動の習慣を一つひとつ形成、維持していくことが重要になります。
⑦KYTに習熟するといちいち段階を追わなくとも声なき危険の声を感じ取って即時則場的に対処できるようになります。そして、人間の持つ総合力としてのカンや直感も磨かれていきます。こうした右脳の働きであるカンや直感と、最新の知識や情報を組み合わせ、論理的思考の長けた左脳の働きとの連携が図られて行く中で、KYTにも一層の深みが出てくるでしょう。
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