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【第1章】第3節 硫化水素発生の原因

1 硫化水素の存在と生成

酸素欠乏症防止対策の対象としていた清掃業等の作業現場において、有機物が分解されて生じた硫化水素による中毒の災害が多発したことから、昭和57年従来の酸素欠乏症の防止措置に加え、新たに硫化水素中毒の防止に関する規定が加えられました(昭和57年政令第124号及び昭和57年労働省令第18号)。

図1-6 自然界における硫黄の循環と硫化水素の発生

自然界における硫化水素発生のメカニズムは、図1-6のようになります。硫酸還元菌の活動(自然界の硫酸や硫酸塩を分解、還元して酸素を利用する)で常時生成されており、自然界では常に火山や温泉から空気中に放出されています。

硫酸還元菌は、地球上に酸素が無かった時代から生息している(=酸素を必要としない)ため、酸素欠乏状態の地中、汚泥(河川、湖沼、港湾等)、下水沈殿物、パルプ工場(製造工程中)等で硫酸や硫酸塩を酸素の供給源として繁殖し、硫化水素を発生させています。

自然界では硫黄は硫酸還元を繰返し安定していますが、人的な硫酸イオンが大量投入された場合等に高濃度に達し、中毒作用を及ぼすことになります。


(1)硫化水素濃度が高くなる施設、場所

① し尿処理施設

し尿貯留槽内では、し尿中の硫黄も含んだ有機化合物の細菌による分解の最終産物として硫化水素が発生します。し尿中には人体内で生成された硫酸塩も含まれ、層内が酸素欠乏状態であると硫酸還元菌の活動が活発になり、硫化水素が発生します。


② 腐泥

腐泥中には硫化物(硫化鉄等)が存在し、酸性化した場合に硫化水素が遊離します。また、腐泥中に硫酸又は硫酸塩が存在すれば、硫酸還元菌の活動を促進します。工場排水等の硫酸又は硫酸塩汚染を受けた腐泥層の掘削時に硫化水素中毒の危険性が高まります。


③ 下水道

下水道沈殿物中では、動植物の蛋白質の分解や硫酸塩に対する硫酸還元菌の作用により硫化水素が発生します。


④ パルプ工場

パルプ製造工場では、製造工程でパルプ液中に硫化ナトリウムや硫酸塩が含まれています。このパルプ液の貯蔵槽内は酸素欠乏空気と混入した硫酸還元菌による硫酸塩から硫化水素が発生します。


⑤ 清掃工場

清掃工場の残灰ピット中の灰には、ごみに含まれている硫黄が燃焼する時にできる硫化物、硫酸塩、亜硫酸塩が存在します。この灰が汚泥状で沈殿貯留されると、硫酸塩と混入した硫酸還元菌によって硫化水素が発生します。


⑥ 海水利用施設(火力発電所等)

施設の冷却に海水を利用する場合、取水するための暗渠や水路に貝類が繁殖して流れが悪くなるため、かき落とし作業が必要になります。この作業時に取水施設を干し上げると貝類が死滅し腐敗します。その後、酸素欠乏状態で死骸の分解がはじまり、硫化水素が発生します。また、蛋白質の分解産物は海水中の硫酸還元菌の活動を促し、硫酸塩が硫化水素に変化します。


⑦ 石油精製工場

石油に含まれる硫黄を含んだ有機物は、燃焼によって二酸化硫黄(亜硫酸ガス:SO2)に変化し、公害の原因となります。これを防ぐために、硫黄分を硫化水素に変えて取除きます。

この硫化水素の貯蔵、輸送パイプからの漏れなどが原因で硫化水素中毒が発生した例があります。


(2)硫化水素の特徴

① 硫化水素の特徴

硫化水素は腐乱臭があり、無色、可燃性、比重1.19の気体です。また、空気と混ざりやすく、水に溶けやすいという特徴をもっています。このため、空気中の硫化水素は人体の眼や呼吸器の粘膜に溶け込み、吸収されやすいことがわかります。


② 硫化水素による災害

硫化水素は、汚水や汚泥中に閉じ込められていることがあります。作業開始当初は濃度が低くても、汚水や汚泥の攪拌などで作業場所に噴出するケースがあり、作業手順の検討と作業中も適宜濃度測定が必要です。

 

 

第4節 硫化水素中毒の発生しやすい場所

【労働安全衛生法施行令 別表第六】

三の三 海水が滞留しており、若しくは滞留したことのある熱交換器、管、暗きよ、マンホール、溝若しくはピツト(以下この号において「熱交換器等」という。)又は海水を相当期間入れてあり、若しくは入れたことのある熱交換器等の内部

九 し尿、腐泥、汚水、パルプ液その他腐敗し、又は分解しやすい物質を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、船倉、槽、管、暗きよ、マンホール、溝又はピツトの内部


 

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