【第4章】第1節 墜落制止用器具等①
1 墜落制止用器具等の使用
墜落や転落のおそれのある酸素欠乏危険場所で作業を行う場合には、墜落制止用器具を使用しなければなりません。酸素欠乏・硫化水素発生の危険がある場所にはしごを使って昇降する場合や、足場上で作業をする場合は、酸素欠乏症で起こる筋肉の脱力等によって墜落するおそれがあります。また、空気呼吸器等を使用する場合は、作業者の視野が狭くなり同様の危険が伴うため、手すりや柵等の墜落防護設備があっても墜落制止用器具等を使用することが必要です。
2 墜落制止用器具の種類(図4-1)
墜落制止用器具は、胴ベルト型、ハーネス形等がありますが、平成31年2月1日の法令改正により、原則としてフルハーネス形の使用が求められることとなりました。
ただし、6.75m以下のところでは、地面等に激突することを避けるために、より落下幅の小さい胴ベルト(一本吊りタイプ)の使用が認められています。
3 墜落制止用器具の取り付け設備等
墜落制止用器具はヘルメットやマスクなど他の保護具と違い、単独では効果を発揮することが出来ません。落下時の衝撃に耐えられる設備等と接続しておく必要があります。
以下は、各種作業における代表的な取り付け設備・材料などの例です。
■垂直親綱
鉛直方向に設置するロープ等による取付け設備をいう。(昇降移動時などに使用)
■垂直親綱用グリップ
垂直親綱を使用して上り下りするときに親綱に取り付け、墜落制止用器具と接続して使用する。
上方向には容易にスライドするが、下方向に力が働くとロックして落下を防ぐ。
万一の際の落下距離を少なく(=衝撃を小さく)するため、グリップと親綱連結部をできるだけ高い位置に保持しながら昇降する。
■水平親綱及び親綱緊張機
鉄骨や足場の組立て・低層住宅の屋根上などでの作業で、水平方向に移動する際に墜落制止用器具のフックを取り付けるための、ロープ等による取付け設備をいう。
親綱緊張機はロープを0.2~0.3 kN程度の力で、ゆるみの無い程度に引っ張り固定する。
引張方向の力が加わるとロープが挟み込まれ固定する構造になっているものが一般的。
■親綱支柱
水平親綱を敷設するための支柱(鉄骨の組立て等の作業で使用)。親綱支柱を設けるときは、取り扱い説明書等をよく読み、正しいセット方向や取付け方法に注意する。
曲がりや腐食等があれば使用してはならない。
支柱の種類
第1種 | 主に鉄骨組立作業等に使用される親綱支柱システムを構成するための支柱で,鉄骨梁のフランジ等に支柱の取付金具により取り付け,支柱用親綱を使用して緊張器により緊張し,安全帯墜落制止用器具の取付設備とするもの。 H形鋼の方向と支柱用親綱の方向の関係において直交型,平行型及び兼用型がある。 |
第2種 | 主に枠組足場等の組立,解体作業に使用される親綱支柱システムを構成するための支柱で,枠組足場を構成する建わくの脚柱や横架材等を利用してセットし,支柱用親綱を張り,控綱をとり安全帯墜落制止用器具の取付設備とするもの。 |
(仮設工業会「親綱支柱・支柱用親綱・緊張器の認定基準」より)
親綱はワイヤロープで直径9mmから10mmのもの、合成繊維ロープは直径16mm以上のものを使用する。使用前には損傷(ロープヤーンが7本以上切断している)等がないか点検する。 あらかじめ必要な個所にセットしておき、必要に合わせて盛り替えていく。また、張るときは弛みがないように緊張する。 1本の親綱は一人で使用し同時に複数の作業者で使用しない。 |
- 親綱支柱のスパン(親綱を固定する親綱支柱の間隔をいう。以下同じ。)は、10m以下とすること。
- 支柱のスパン(L)は支柱を設置した作業床と、衝突の恐れのある床面又は機械等の垂直距離(H)に応じ次式より算出した値以下とすること。
L = 40 / 11 ( H – 4 ) [m]
※(仮設工業会「親綱支柱~認定・使用基準」2019.12.12 施行) - 親綱は、緊張器等を用い親綱支柱にたるまないように張ること。
- フルハーネス型を使用の場合水平親綱の位置は背中のD環よりも上に張る。
(参照:「手すり先行工法等に関するガイドライン」「別表4 親綱機材の使用方法」)
4 墜落制止用器具の使用
一定の条件(高さが二メートル以上の作業床を設けることが困難なところ)でフルハーネス型を使用する場合は事前に特別教育を実施しておかなければなりません。
また、6.75m以下の高さで胴ベルト型を使用する場合は、D環の位置が身体の前面にならないようにし、腰骨の上の位置でしっかりと締めます。 墜落制止用器具に使用するランヤードは、墜落防止のためにできるだけ2丁掛けタイプを使用します。(図4-2)
5 命綱
枕形タンク、複雑な化学設備、船舶のホールド等外部から監視できない場所に入って作業する場合には、命綱をつけて一端を外で監視する者が持ちます。命綱は中の作業者と外の監視者との間の合図用としても使用でき、事故の場合にはこれを利用して迅速な救助活動を行うことができます。命綱は作業行動の自由を失わせないよう十分な長さのものを用意すべきですが、送気マスクを装着している場合には、ホースの長さより長くしないように注意します。
6 その他専用取付け金具等
鉄骨の柱や梁等に取付けられる、墜落制止用器具の吊元となるクランプ等の金物やループ状のベルトなどがあります。
■安全ブロック
安全ブロックは高所作業用の墜落防止器具であり、ビルなどの建設現場に設置し先端のフックを安全帯のD環に接続して使用されることが多い。
ワイヤロープの長さは各種あり、使用する現場に合わせて選択する。
高速で引き出された場合は自動車のシートベルトのようなストップ機能が付いており、また、ショックアブソーバ内蔵タイプも商品化されている。
※補助ベルト(手元ストラップ)
自分ひとりで背中のD環にフックを接続するのは難しいため、補助ベルトが考案され販売・使用されている。
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