3-3 適正配置における留意事項
適正配置のために必要なこととして、次の事項にも留意する必要があります。
1)日頃から部下の労働能力(知識・技能・態度・体力等)の把握に努める
2)計画的に部下の安全衛生教育訓練を行い労働能力を高める
3)免許、技能講習、特別教育など必要な資格(教育)を取得するよう、事業者や部下にも働きかける
4)危険有害業務、女性、年少者等に対する法令の規制を確認し、順守する
5)健康診断結果や持病・投薬状況など、健康状態を把握しておく
人員配置に「これで万全」ということはありませんが、無資格者の就業や未熟練者の単独配置など、明らかな「不適正配置」を排除することは最低限の基準として心得ておかなければなりません。人員配置の際はそういった配置になっていないか、必ず確認するようにしましょう。
また職長は、明らかに人数や有資格者が不足する場合など、現場で責任をもって解決できないような問題がある場合は、自分だけで解決しようとせず必ず上司に報告し相談しましょう。
(1)年齢別災害発生の状況
建設業における年齢別死亡者数・死傷者数の統計によると、両者で若干の違いはあるものの、50歳以上の被災者の割合が非常に高いことがわかります。
一方、若年者の発生割合は一見低いようですが、そもそも建設業における15~19歳の雇用者数そのものが全体の雇用者数の0.8%であり、20~29歳の12.3%、30~39歳の約14.8%などと比較すると15~20分の1程度であり、単位就業者数当たりの災害の発生率としては非常に高いということがわかります。
また、50歳以上の死亡者率は中堅世代と比較し高いと言えますが、意外なことに死傷者の発生率はさほど顕著な違いがありません。30歳未満の死傷者発生率が非常に高いことにも注意が必要です。
(2)高年齢作業者の適正配置
建設現場の高年齢作業者の適正配置にあたっては、作業の条件、作業環境および高年齢作業者の特性を十分理解しておくことが大切です。
高年齢作業者を配置する際の具体的な対策として、まずは基本的な安全対策が確実に行われていることを確認し、その充実を図ることが基本です。加えて、高年齢作業者の加齢に伴う機能低下についての対応や、各々の特性に配慮した配置が求められます。
【参考】
厚労省リーフレット:「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/0903-1.html動画:「中高年齢労働者向け教育ビデオ」(中小建設業特別教育協会編)
https://www.youtube.com/watch?v=eZ6RH_F93EAまた、令和2年3月厚労省より高年齢労働者の労働災害を防止することを目的とした「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(通称:エイジフレンドリーガイドライン)」が公表されました。
高年齢労働者を使用する又は使用しようとする事業者及び労働者に、取組が求められる事項を具体的に示したものとなっており、以下の概要となっています。
「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の概略
第1 趣旨
第2 事業者に求められる事項
1 安全衛生管理体制の確立等
(1)経営トップによる方針表明及び体制整備
(2)危険源の特定等のリスクアセスメントの実施
2 職場環境の改善
(1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入(主としてハード面の対策)
(2)高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(主としてソフト面の対策)
3 高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
(1)健康状況の把握
(2)体力の状況の把握
(3)健康や体力の状況に関する情報の取扱い
4 高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
(1)個々の高年齢労働者の健康や体力の状況を踏まえた措置
(2)高年齢労働者の状況に応じた業務の提供
(3)心身両面にわたる健康保持増進措置
5 安全衛生教育
(1)高年齢労働者に対する教育
(2)管理監督者等に対する教育
第3 労働者に求められる事項
第4 国、関係団体等による支援の活用
(1)中小企業や第三次産業における高齢者労働災害防止対策の取組事例の活用
(2)個別事業場に対するコンサルティング等の活用
(3)エイジフレンドリー補助金等の活用
(4)社会的評価を高める仕組みの活用
(5)職域保健と地域保健の連携及び健康保険の保険者との連携の仕組みの活用
【参考サイト】
厚労省:高年齢労働者の安全衛生対策について
高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン
資料・動画・リーフレット
(動画『転倒・腰痛予防!「いきいき健康体操」』他) 他
ところで、「高年齢者」とは、具体的には何歳からを指すのでしょうか?
実は労働安全衛生法関連では、今のところ年配者についての定義や規制はありません。
今後ますます就業者の年齢が高くなることが予想され、それに伴って労働災害が増加するようなことがあれば何らかの規制が出来るかもしれませんが、そんなことにならないように事業者・労働者の双方が事前に十分な配慮・対策をし、労働災害を未然に防いでいかなければなりません。
(なお、年齢について『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律』及び同法施行規則では、55歳以上を「高年齢者」としています。)
実際に何歳以上の作業者を対象に「高年齢労働者」として対応するかは、身体能力等に個人差もあり、それぞれの事業者が実情に合わせて決定すべきですが、前述の55歳の定義や統計上の労働災害発生傾向から考えると、一般的には殆どの人が体力の衰えや老眼を実感する50歳を一つの目安とし、以降最低5歳刻み程度で身体能力の確認、職務内容に関する研修や訓練など、具体的な対策を講じていく必要があると思われます。
(3)女性および年少者に対する適正配置
若年作業者は、知識、技能、経験などの不足による作業上の問題が生じやすく、建設業における29歳以下の死傷災害の発生率は、全世代での中でも高くなっています。
従って特にこういった年齢層の部下を持つ職長は、作業者の能力・適正に応じた仕事の割り振りや、出来るだけ熟練作業員とペアでの割り振りを心掛けたり、作業内容に関する事前の十分な説明、こまめな指導・監督活動等の配慮が望まれます。
なお、女性(満18歳以上)および年少者(満18歳未満の男女)は、労働災害防止と労働福祉の観点から、それぞれ一定の危険有害業務について就業制限が規定されており、法令上の特別な措置が求められています。(『女性労働基準規則』、『年少者労働基準規則』)
【参考】
労働基準法第62・63条及び年少者労働基準規則第8条による、18歳未満の者の危険有害業務の従事制限・坑内労働の禁止
● 次のような危険又は有害な業務については、就業が制限又は禁止されています。
(抜粋)
一 ボイラーの取扱いの業務
二 ボイラーの溶接の業務
三 クレーン、デリック又は揚貨装置の運転の業務
五 最大積載荷重が二トン以上の人荷共用若しくは荷物用のエレベーター又は高さが十五メートル以上のコンクリート用エレベーターの運転の業務
七 動力により駆動される巻上げ機(電気ホイスト及びエアホイストを除く。)、運搬機又は索道の運転の業務
八 直流にあつては七百五十ボルトを、交流にあつては三百ボルトを超える電圧の充電電路又はその支持物の点検、修理又は操作の業務
九 運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除、給油、検査、修理又はベルトの掛換えの業務
十 クレーン、デリック又は揚貨装置の玉掛けの業務(二人以上の者によつて行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く。)
十二 動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務
十七 軌道内であって、ずい道内の場所、見通し距離が四百メートル以内の場所又は車両の通行が頻繁な場所において単独で行う業務
二十一 手押しかんな盤又は単軸面取り盤の取扱いの業務
二十二 岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務
二十三 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが五メートル以上の地穴における業務
二十四 高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務
二十五 足場の組立、解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く。)
二十六 胸高直径が三十五センチメートル以上の立木の伐採の業務
二十七 機械集材装置、運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務
二十八 火薬、爆薬又は火工品を製造し、又は取り扱う業務で、爆発のおそれのあるもの
二十九 危険物(労働安全衛生法施行令別表第一に掲げる爆発性の物、発火性の物、酸化性の物、引火性の物又は可燃性のガスをいう。)を製造し、又は取り扱う業務で、爆発、発火又は引火のおそれのあるもの
三十一 圧縮ガス又は液化ガスを製造し、又は用いる業務
三十二 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふっ)化水素酸、塩酸、硝酸、シアン化水素、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
三十三 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふっ)素、塩素、シアン化水素、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
三十四 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
三十六 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
三十七 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
三十八 異常気圧下における業務
三十九 さく岩機、鋲(びょう)打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務
四十 強烈な騒音を発する場所における業務
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