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6-1 リスクアセスメント①

事業者が労働者の安全と健康を確保するためには法令を順守しておけばよい、という考え方は過去のものとなっています。事業者は事業場における安全衛生水準を最大限に高めることができる方法で安全管理を行う必要があり、これを実現するための有効な方法の一つが、自主的に危険性又は有害性の調査を行い、必要なものに対して対策の検討・実施をしていくといった手法です。法的な用語を「危険性または有害性等の調査」とされているこの手法は、一般に「リスクアセスメント」と呼ばれています。また、頭文字をとって「RA」と書くこともあります。

(1)リスクアセスメントとは

人が仕事をする場合必ず何らかのリスクがありますが、一日中机上で作業する人と建設現場で作業する人では相当な違いがありそうです。かといって、オフィスワークの人に全くリスクがないかと言えば、パソコンによる眼精疲労などVDT症候群と呼ばれる職業性疾病や腰痛、階段昇降時の転倒なども考えられますので、ノーリスクということはありません。

リスクアセスメントは、これら職場の労働災害リスクを調査して、まず「受け入れられるリスク」と「受け入れられないリスク」に分けることです。

次のステップとして、受け入れられないリスクに対して事業者独自の基準で対策を講じることにより、職場の安全水準の向上を図ります。なお、当然ですが法令の定めがあるものは必ず実施しなければなりません。

これらを体系的に進める手法が、リスクアセスメントです。

事業所の労働災害リスク

「危険性又は有害性等の調査等に関する指針(以下「指針」という)」により事業者は、設備、原材料、作業方法、作業手順を新規採用または変更したときは、危険性または有害性などの調査(リスクアセスメント)を実施することとされています。その結果に基づいて、これを除去・低減する措置を講ずるよう努めなければなりません。また、一度もリスクアセスメントを実施していない既存の設備や作業、機械設備などの経年劣化や新たな安全衛生に関する知見の集積などにより、リスクに変化が生じたときや、生じる恐れがあるときについても計画的に実施することが必要です。

労働災害発生の仕組み(メカニズム)

【参考:災害発生の仕組みとリスクアセスメント】

災害発生のしくみ

災害発生に至る三段階

①危険状態 → 「危険源(ハザード)」と人が接近する

接近しただけでは必ずしも災害に至るとは限りませんが、ここからが「リスク」のスタートです。なお、リスク指針では「危険源(ハザード)」を「危険性又は有害性」と表現しています。 

どちらかが無ければリスクは生じません。このことは、対策の着眼点としても重要です。

②危険事象 → 「危険源」と「人」のニアミス・接触

例)漏電部分に触れる、高所で足を踏み外す、機械の回転部分に触れそうになる、化学物質などのばく露・・

③回避  → 災害防止措置・機能や保護具、人の回避行動など

例)漏電遮断器、保護メガネ、立入禁止措置・・

●「可能性の度合い(発生確率)」とは①「危険状態」から②「危険現象」が発生し、③「回避」できずに災害に至る確率

●従って、対策は①②③それぞれの段階が考えられ、当然①の「危険状態」の発生を未然に防ぐのが一番望ましい

(2)リスクアセスメントの手順

 リスクアセスメントの基本的な手順は以下のとおりです。

 ①危険性又は有害性の特定

 ②リスクの見積り

 ③リスク低減措置のための優先度の設定、リスク低減措置の内容検討

 ④リスク低減措置の実施

 ⑤記録

リスクアセスメントの基本的な手順

(3)職長の役割

リスクアセスメントの考え方や具体的な進め方を示した「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、職長等の役割について以下のように示しています。

実施体制等

また、上記指針の解説では、職長の役割は「リスク低減措置の検討」までであって、低減措置の決定や実施は事業者の責任で実施されるべきことを示しています。

『なお、リスク低減措置の決定及び実施は、事業者の責任において実施されるべきであるものであることから、指針の4(1)エにおいて、職長等に行わせる事項には含めていないこと。』

(4)危険性又は有害性の特定

「危険性又は有害性の特定」はリスクアセスメント実務のスタートであると同時に、ここで特定し損ねてしまうと重大なリスクを放置することになりかねないため、非常に重要なポイントとなります。


危険予知活動は経験に根差した直感・感性に基づく手法ですので、その時に思いつく範囲が対象となりますが、リスクアセスメントの基本的な考え方は、職場に存在する全ての危険性又は有害性を対象に調べていこうとするものです。

しかし、「全ての危険性又は有害性」の調査は膨大なものになるため、現実的な方法として作業標準や作業手順書に沿って、「必要な単位で作業を洗い出して危険性又は有害性を特定する」とされています。


なお、作業標準等がない場合には、当該作業の手順を書き出した上で、それぞれの段階ごとに危険性又は有害性を特定します。

また、特定する際の情報として、現場で実際の作業を確認するとともに、法令、社内規定をはじめ、現場の機械設備、作業環境、作業などの安全衛生に関する情報を入手しておきます。作業手順書に加え、それらの情報をもとに危険性又は有害性を特定し、リスクアセスメントを進めます。


特定した危険性又は有害性は、この後の見積り作業や最終的なリスク低減措置の実施段階に至るまで多くの人と共有される情報ですので、誰が見ても内容が理解できる表現が求められます。

表現について特に決まったものはありませんが、状況を客観的に表現するための形式(キーワード)として以下のものがあります。

「~なので、~して」又は「~なので」 + 「~になる」又は「~する」

なお、形式どおりだからといって「高所作業なので転落する」では「特定」したことになっていません。どんな高所作業で、何が原因で転落するのかわからなければ具体的な対策を立てようがありませんので注意しましょう。

「誰が見ても内容が理解できる」とは「ああ、こういう場面、なるほどあるある」と理解できるということです。

 

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