6-1 リスクアセスメント②
(5)リスクの見積り
①リスクとは
リスクは、危険性又は有害性などにより負傷または疾病が発生した場合の危害の「重篤度」と、負傷または疾病が発生する「可能性」の度合いを組み合わせて考えます。これらの要素を組み合わせることによりリスクの大きさが見積られ、リスク低減措置を実施する優先順位を判断することが出来ます。
②リスクの見積り
リスクの見積りとは、対象となる労働災害が発生した場合の「負傷又は疾病の重篤度」と、その災害が「発生する可能性」でリスクの大きさを判定することです。見積りの具体的な方法は数種ありますが、二つの項目を数値で示し、加算又は乗算する方式が最も一般的です。
③見積り基準の例
見積りに当たって必要なことは、予め基準を作成しておくことです。
例えば「瓦屋根から足を滑らせて転落する」ことをテーマに考えると、
・転落した時のケガの程度
・転落する可能性の度合い
が判定できればリスクの大きさがわかりますが、前図では目安となる区分(目盛り)が示されていませんので判定のしようがありません。基準とは、この区分(目盛り)のことに他なりません。
予め3つとか5つとかに区分し目盛りを付けておけば、それを目安にけがの程度や可能性の大きさを示すことが出来ます。
前図は説明用に作成していますので、四角の面積の大きさがリスクの大きさを示すことがわかりますが、通常は予め見積り用の表を作っておきます。
以下は重篤度と可能性をそれぞれ3段階に分けて内容を定義した例です。それぞれを3~5段階に分けた例が多く見られますが、特に決まっているわけではありません。それぞれの事業者がやりやすいように決めて構いません。
数字の代わりに〇△×などを使用する方法もあります。
例えば「足場の解体作業中に取り外した単管が落下し、地上の作業者に当たる」リスクについて、
「重篤度」・・・3点 又は ×
※重篤度は(常識的に考えられる)最悪の場合を想定して見積ります。
「可能性」・・・1点 又は ○
などと見積ります。
なお、数値の場合は加算するか乗算するかを決めておく必要があります。この例では加算を条件とし、3点と1点で「4点」となります。
○×方式の場合は×と○なので「×○」となります。
次に、この「4点」(又は「×○」)でリスクの大きさを評価します。
④リスクの評価と優先度の決定
③の基準を元に計算した結果(リスクの大きさ)を一定の基準で(例えばⅠ~Ⅴまでの5段階など)いくつかのレベルに分けて評価し(以下「リスクレベル」という)、優先度を決めます。
リスクレベルごとにその内容と、取るべきリスク低減措置も併せて決めておくことが必要です。
先ほどの③の例では「4点」(又は「×○」)でしたので、この表によるとリスクレベルは「Ⅲ」、「安全衛生上問題がある」という判定で、「低減措置を速やかに行う」というリスク低減措置の基準になります。
リスクアセスメントは自主的安全活動であり、リスクの評価は評価者によっても違うので、見積りや評価の基準となるこれらの表も独自のもので構いません。
(6)リスク低減措置の検討と実施
リスク低減措置を検討し提案するところまでは、リスク指針により職長等の役割と位置付けられています。検討に当たっての優先順位も指針に定められており(次図)、作業者の意見も参考にしながら各レベルの実施案について検討し、提案します。
次に、実施に伴う予算執行に権限のある管理者が、実施しようとする措置が法令などに適合したものであることを確認したうえで、実施内容を決定します。
リスク低減措置の内容が決まると、いつまでに誰が改善するのかなど具体的な改善計画を作成して、必要な措置が確実に講じられるようにします。
さらに、措置を講じた後再度作業者を含めてリスクを見積り、措置の有効性や効果を確認し検証します。
また、措置後に残るリスク(以下、「残留リスク」という)や、新たに発生したリスクがある場合についても、必要があれば追加で改善するよう提言します。
作業者に対しては、これらの措置内容について周知徹底するとともに、新たな操作や作業方法などについて教育訓練が必要となることもあります。
【参考】
1.「リスクの除去」とは、危険源と人を接近させない方法であり、人を危険源に接触することが困難な程度に遠ざけるか、危険源を無くすことが考えられる。
2.「リスクの隔離」とは、危険源と人が接近しても危険現象が起こらないようにする対策のうち「工学的対策」をいう。
3.「リスクの回避」とは、危険源と人が接近しても危険現象が起こらないようにする対策のうち「管理的対策」をいう。
4.「リスクの低減」とは、リスクの除去・隔離・回避が十分でなく危険事象の発生を防げないとき、主に保護具の効果により危害の低減を図ることをいう。
(7)リスクアセスメントの目的と効果
①リスクアセスメントの目的
従来の、発生した災害を参考に対策を講ずる「後追い型の安全衛生管理」に対し、リスクアセスメントは災害が発生する前段階、つまり、危険ではあるが災害には至っていない状態(潜在的危険性:リスク)を積極的に把握し、排除又は改善する「先取り型の安全衛生管理」と言われています。
リスクアセスメントの目的は、現場に存在するリスクを把握し改善策についての情報を添えて事業者に報告することによって、災害の発生を防止し、又はリスクの大きさを許容限度内に抑えて被害の程度を減らすことです。
②リスクアセスメントにより期待される効果
リスクアセスメントを実施することにより現場のリスクが明確になります。
また、作業者が管理・監督者とともに調査等を行うことにより、現場全体でリスクに対する共通の認識を持ちやすくなります。
さらに、定期的に調査を継続することにより、リスクをリスクであると感じる感受性の高まりによる災害防止効果も期待されます。
なお、リスクの低減措置の優先順位を決定する際に、緊急性・資金など必要な経営資源が検討されるため、費用対効果の面からも合理的で有効な対策を実施することが期待できます。
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