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7-4 災害事例研究

(1)災害事例研究の目的とねらい

災害事例研究は、実際に発生した労働災害・事故の事例を課題として、事実と背景を体系的につかみ、有効な災害防止対策を樹立していく手法です。災害事例研究の目的は次のとおりです。

①災害発生の原因について科学的に分析し、的確な防止対策を見出し、同種災害、類似災害を未然に防止する。

②だれが災害を起こしたかということよりも、何が真の原因で災害が発生したかを明らかにする。

③災害防止の原理原則を習得して、今後の安全衛生活動にこれを活用することで、正しいものの見方、考え方への理解を深め、災害防止に対する態度を養う。

(2)災害事例研究の進め方

災害事例研究の基本手順は次の4段階によって進めます。

①事実の確認(第1段階)

災害発生状況の主な項目について把握し、事例の解決に必要な事実・情報を正確に把握する。

イ.災害発生状況の把握
災害発生の状況を、5W1Hの原則を活用して表現する。
災害現場の見取図(平面図と断面図)、施工体制・組織図を作成する。
災害発生の経過を時系列に確認する。

ロ.事実確認
事実の確認にあたっては、人的・物的・管理的事実の区分について考察する。

②問題点の発見(第2段階)

第1段階で把握された事実から判断して、基準から外れた事実を問題点として抽出し、その理由を分析する。

③根本的問題点の決定(第3段階)

第2段階で抽出した問題の中から、どの問題点が災害の中心的要因となったかを検討し、これを根本的問題点として決定し災害の原因をまとめる。

イ.根本的問題の決定
問題点ごとに、その要因が人的・物的もしくは管理的要因であるか区分を決める。
問題点ごとに、どんな管理上の責任の欠陥があるかを、可能性と重大性で評価する。
評価後の結果、危険度が高いものを根本的問題点として決定し、順次対策を立てて実施する。とくに法令、社内規定に違反するものは問題点が大きいので、災害との因果関係を考慮して根本的問題点とする。

ロ.根本的問題点は複数決定されるが、それぞれ独立しているので、これらの相関関係を明らかにするために事実を要約して災害原因を決定する。

④対策の樹立(第4段階)

根本的な問題点および災害原因に基づき再発防止のためのリスク低減措置を実施する。

イ.リスク低減措置内容の検討
事例の事実や問題点から事前に災害を防止できたであろう可能性を追求して、人的な打ち合わせ、物的および管理的な面から災害防止の為のリスク低減措置を検討する。
対策は、具体性、必要性および実施可能性のあるものであって、最善の方法を検討する。
今後、災害原因の発見の方法、災害原因の除去の方法および新たな災害原因の発生を防止するにはどうすべきかを検討する。

ロ.実施計画
対策の実施計画は、単なる対処療法的ではなく、対策の重点的な内容と実施順位を定め、当面の対策と抜本的対策とに分けて立てる。
対策ごとに、いつ、だれがなどの5W1Hを明らかにする。


【参考】

「職場のあんぜん」サイトの労働災害事例

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/index.html

労災事故報告に基づいた実際の災害事例が2,500件以上(令和3年9月現在)データベース化され、業種別や事故の型別に検索できるので、職場の安全衛生教育用やリスクアセスメントの参考としても活用可能。

「職場のあんぜん」サイトの労働災害事例


災害事例(1) 油圧ショベルで敷鉄板を吊り上げ、吊りフックから外れ下敷き

発生状況

下水道管埋設工事現場で油圧ショベルを用いて敷鉄板の撤去と運搬作業を行っていたところ、敷鉄板が吊りフックから外れ誘導者に直撃し、敷鉄板の下敷きになって死亡した。


  1. 本災害の発生現場は、仮設の資材置場として、畑地にシートを敷き山砂で盛土して表面に補強用の敷鉄板(厚み22mm 1,524mm×3,048mm重量802kg)で補強されたものである。
  2. 被災者Yの所属するS社は、上下水道管埋設工事請負業を営み、同現場で1次下請業者として下水道管埋設工事を請け負っていた。
  3. 災害発生当日は、午前8時頃、現場に元請A社の現場代理人TとS社職長Mと被災者H、その他5人を含めた計9人が集合した。
  4. 作業開始に当たっては、元請A社現場代理人Tからの指示はなく、S社職長Mがミーティングで当日の作業内容と作業分担の指示を出したが、安全に関する指示は無かった。
  5. 現場代理人Tは、その後、現場事務所に引き上げ、職長Mは、ミーティング終了後、別の現場に出かけて不在であった。
  6. 職長Mの作業指示内容は、被災者Yと他の2名が資材置場の敷鉄板の撤去と運搬、1名は資材置場の盛土運搬、他の5名は道路路肩の補修、運搬であった。
  7. 午前中の敷鉄板の撤去・運搬作業は、油圧ショベルの運転者(有資格者)X、被災者Yが敷鉄板へのフック掛け、吊り荷(敷鉄板)の誘導、他の作業員Zがトラック荷台で敷鉄板の誘導と荷台への取込作業をそれぞれ行っていた。
  8. 吊り具は、全長2mの直径12mmのワイヤロープの先に50mm程のフックが付いたもので、外れ止め装置はなかった。
  9. 敷鉄板の積み込みに使用していた油圧ショベルは、クレーン機能付き重量20t(バケット容量0.6㎥)、実作業荷重990kgで、バケット側には吊り上げ作業用に外れ止め装置の付いた吊りフックが付いていた。
  10. 災害は、9時15分頃、5枚目の敷鉄板をトレーラーの荷台に降ろそうとした時に発生した。
  11. 本作業は、次の手順で行っており、9時15分頃、鉄板をトレーラーの上にすでに積まれている4枚目の敷鉄板の上に一旦立てたところ、鉄板の吊り上げ用の穴からフックが外れ、強風にあおられて、トレーラー右後輪の脇で誘導していた被災者Yの上に落下し、上半身が鉄板の下敷きになった。

    ①油圧ショベルのバケットの爪を鉄板の長辺中央の穴に引っかけて浮かせ、枕材(9cm角×1m長さ)を噛ませて、爪を抜いた。

    ②被災者Yは吊りワイヤーのフックを敷鉄板の吊り穴に直接引っかけ、油圧ショベル運転者Xが、油圧ショベルでこれを吊り上げ、被災者Yが荷ぶれしないように敷鉄板を直接押さえて誘導しながらトレーラーの荷台まで移動した。

    ③荷台上の作業員Zが、敷鉄板を寝かせる位置まで誘導し、前回降ろした敷鉄板の吊り穴の脇約10cmの所に立て敷鉄板の吊り穴の反対側に向けて倒そうとした。

  12. トレーラーに敷鉄板を重ねて積む際には、下の敷鉄板の吊り穴が上の鉄板で塞がれないように、穴を左右互い違いにして、左右10cm程度ずらす必要があった。
    そこで、次に積み込む敷鉄板は、すでに積まれている4枚目の敷鉄板の吊り穴から10cmの所に一旦立て反対側に倒そうとしたが、鉄板を立てた際、油圧ショベルのアームを降ろしすぎたため、吊っていたワイヤロープが緩み、吊りフックが敷鉄板から外れ、後輪の右脇で誘導していた被災者Yに覆い被さるように直撃した。
災害発生状況の把握
災害事例(2) マンション新築工事の足場解体工事中、5.3m下の地上に墜落

発生状況

本災害があったのは、鉄筋コンクリート造の3階建てのマンション新築工事現場である。この現場は、敷地120平方メートルで、南と西が公道、東と北が民家に隣接している。本工事は、M社が約1年2ヶ月の工期で請け負い、建屋は完成し、足場の解体作業を残すのみとなっていた。

この解体するわく組足場は、今から約6月前に組み立てられ建屋の四方を囲む形で、くさび緊結式二側足場で緊結部付き支柱を立て、梁間方向幅0.7m、作業床(幅0.5mの鋼製床付き布枠)が高さ1.7mの間隔で6層(地上から11.1m)各面に設置されていた。


  1. 元請M社は、足場の組立・解体工事を地元の建設会社K社に下請けさせた
  2. 元請M社は、初めての元請受注工事で現場代理人Bは、現場に常駐しておらず、災害当日も現場に不在であった。
  3. 元請M社はマンション新築工事の安全衛生協議会を開催しておらず、前日の下請会社との安全工程打合せ会も行っていなかった。
  4. 元請M社は施工計画を作成していたが、足場設置の届出は行っていなかった。また、下請K社は具体的な作業方法や作業手順書等を定めた書面による作業計画がなかった。
  5. 災害当日は、K社職長Y、被災者Tを含めた計4名の作業員で2日で作業終了の予定であった。
  6. 足場の組立、解体、変更等の作業を行う場合に必要な「足場の組立等作業主任者」はいなかった。また、職長Yは「職長・安全衛生責任者教育」を受講していなかった。
  7. 足場の解体方法については、養生シートをはじめに外し、上部の南側から回りながら順に、足場板と布、腕木、支柱を外していく予定であった。
  8. 職長Yは、作業場所に集合した作業員に対し、2人が足場の上段から順次解体を行い、被災者Tが中段で解体した足場材の受け取りと解体作業を行う、もう1人が足場材の受け取りとトラックへの積み込み作業を行うように指示したが、安全ミーティング及び危険予知は実施しなかった。
  9. 職長Mは、地上で足場材を整理して、トラックへ積み込む作業を行っていた。
  10. 2時間経過後の10時頃、職長Mは休憩のため、作業員全員に地上に降りるよう呼び掛けた。この時点で、解体作業は4段目で3階付近まで終了していた。
  11. 被災者Tは、職長Yに一段落したら休憩のため地上に降りることを伝え、東面の2段目で3段目の解体作業を行っていた。
  12. 被災者Tを除く、職長Yとその他の作業者は、足場材運搬トラックの日陰で休憩をしていた。
  13. しばらくして、「ドォン!」という大きな音がしたので、全員が足場の方を振り向くと地上に被災者Tが倒れていた。
  14. 被災者Tは、保護帽は着用していたが、安全帯は着用しておらず、墜落防止措置が何もとられていなかった。
  15. 被災者Tは、解体した足場材を上部の解体作業者から受け取り、地上の作業者に手渡しで降ろしていたが、東面の2段目から3段目の足場の解体作業は単独で行っており、解体した部材は投下していた。
  16. そのため、3段目の鋼製床付き布枠を取り外し、地上に投げ下ろそうとし床付き布枠とともに5.3mの地上に墜落したものと推定される。
  17. 元請M社の現場代理人Bは、足場の解体作業計画等、足場の組立等作業主任者の選任状況の確認を行っていなかった。職長Yは、足場の解体作業には作業主任者の選任は必要ないと思い込み選任していなかった。
  18. 元請M社現場代理人Bは不在で、現場巡視は行っていなかった。
災害発生状況の把握

 

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