【第1章】第1節 作業に用いる設備の種類、構造等③
2.作業に用いる設備の点検及び整備の方法
1.墜落制止用器具の取付け設備と点検、整備
墜落制止用器具を携行しても、墜落の恐れがある個所で使用しなければ役には立たちません。 また、使用する場合も取り付ける設備が不完全だったり、そもそも取り付ける箇所がなければ意味がありません。 従って、使用前に取り付け設備の有無や不備が無いかなど、必ず点検します。 |
【参考:安全帯使用時の墜落災害の状況(平成22年~26年)】
総計 170 (労働者死傷病報告により建設業に属する事業場からの報告のみ抽出)
(1) 宙づり、落下中に梁等に衝突した事例 17
①地上等以外の箇所に衝突 15
②安全帯による長時間の圧迫 1
③安全帯を介した身体への衝撃荷重 1
(2) 安全帯を着用していたが地上等へ衝突した事例 16
①親綱支柱の設置間隔が広い 1
②親綱の緊張が不十分 2
③ランヤードが長い 3
④作業床の高さが低い(親綱4m未満、その他2m未満) 10
(3) フックが外れる等で地面等へ衝突した事例 137
① 親綱が切れた又は外れた 10
② ランヤードが切れた 5
③ フックを掛けた手すり等が緊結不備等により外れた 25
④ 不適当な箇所に掛けたフックが外れた 64
⑤ 安全帯が脱げた 10
⑥ フックを掛けた足場等全体が倒壊 20
⑦ 不明 3
(出典:第3回墜落防止用の個人用保護具に関する規制のあり方に関する検討会資料)
※墜落制止用器具の取り付け設備が全く無い状態や、設備の不備や不十分な状態で高所作業(高さ2m以上の場所での墜落転落の危険がある作業)をさせることは、事故の有無に関係なく、その時点で違法です。
例え作業者が「大丈夫だから」と言って自ら進んで危険な作業をしたとしても、「作業者を安全な状態で働かせる」という事業者(会社)の責任が軽くなることは全くありません。
また、現場実務を行う際に事業者(会社)から作業の指揮監督を任されて責任を負っている管理監督者、つまり職長も責任を問われる場合が数多くあります。
【取り付け設備に関する労働安全衛生法上の責任についての考え方の例】
- そもそも取り付け設備が無いのは事業者(会社・代表者)の責任
例)親綱を張るべき作業現場だが、そういった設備そのものを会社が用意していないため、フックを掛けるところが無い状態で作業をさせた
- 取り付け設備はあるが設置しないで作業させるのは現場監督者の責任<
例)親綱設備を施工車に積んでいたが、少しの間だけなので大丈夫と判断し設置しないまま作業をさせた
- 取り付け設備はあるが不備があるのは事業者又は現場監督者などの責任
例)点検を怠り劣化・損傷した親綱を作業者に使用させ、転落した際親綱が切れて作業者が地面に激突した
(点検制度や指導教育の不備・不良品を使用させたことなどに関する会社としての責任、点検を怠ったことに対する現場監督者・点検担当者の実務上の責任などが考えられる)
注)
上記はおおまかな判断の目安であり、実際の安衛法違反の送検事例では個別の状況により様々なケースがあります。
また、安衛法は主に事業者責任を重点に作られていますが、実際に災害が起こると痛い目に合うのは作業者自身ですから、自分を守ってくれるものをしっかり点検し、指示が無くても安全な作業を心掛けることは当然です。
2.取付け設備等の点検項目と廃棄基準例(下表参照)
・安全に使用するため、始業前に必ず点検する。
・点検で廃棄基準に該当する場合は、使用せずに新品に取り替える。
部品名 | 点検項目 | 廃棄基準 |
---|---|---|
親綱・子綱 | 損傷の有無 | ロープヤーンが7本以上切断しているもの |
摩耗の有無 | 著しく摩耗しているもの | |
型崩れの有無 | 型崩れ(捩れてコブ状)が発生しているもの | |
さつま編みの 緩みや抜け |
さつま編みに緩みの発生しているものや抜けているもの | |
薬品・塗料の付着 | 薬品が付着したものや、塗料が付着して硬化したもの | |
シンブルの変形等 | シンブルに変形があるものや脱落しているもの | |
緊張器 | 伸縮機能の良否 | ・伸縮機能が困難なもの ・ばねが破損しているものや脱落しているもの ・作動の悪いもの |
ばねの折損の有無 | 折損または脱落して把持できないもの | |
押爪の摩滅の有無 | 押爪先端の凹凸が1/2以上減っているもの | |
錆の有無 | 全体に錆が発生しているもの | |
変形の有無 | 目視で判断できる変形があるもの | |
傷の有無 | 深さ1㎜以上の傷があるもの。微細な亀裂があるもの | |
リベットの摩滅や ガタツキ |
・リベットの頭部やカシメ部が摩滅しているもの (1/2程度) ・リベットにガタツキがあるもの |
|
フック金具 | 機能の異状の有無 | ・安全装置や外れ止め装置が確実に作動しないもの ・ばねが損傷したものや、脱落したもの |
変形の有無 | 目視で判断できる変形があるもの | |
傷の有無 | ・深さ1㎜以上の傷があるもの ・微細な亀裂があるもの |
|
錆の有無 | 全体的に錆が発生しているもの | |
(カラビナ) 腐食の有無 |
白錆(腐食)が発生しているもの。 | |
リベットの摩滅や ガタツキ |
・リベットの頭部やカシメ部が摩滅しているもの (1/2程度) ・リベットにガタツキがあるもの |
|
安全ブロック | ストラップの 巻き込み 繰り出しの良否 |
スムーズにストラップが巻き込み・繰り出ししないもの |
本体の割れや変形 | 本体に3㎜以上の割れがあるものや 目視で判断できる変形があるもの |
|
ストラップの 損傷の有無 |
損傷・焼損・擦り切れなどで芯材が露出しているもの | |
ストラップの 薬品や塗料の 付着の有無 |
薬品が付着したものや、 塗料が付着して硬化しているもの |
|
ストラップの 変形の有無 |
全長にわたり、捩れたり変形し波打っているもの | |
縫製糸の 切断の有無 |
縫製糸が1か所以上切断しているもの | |
伸縮調節器 | 伸縮機能の良否 | 伸縮機能が困難なもの |
ばねが破損しているものや脱落しているもの | 作動の悪いもの | |
ばねの折損の有無 | 折損または脱落して把持できないもの | |
押爪の摩滅の有無 | 押爪先端の凹凸が1/2以上減っているもの | |
伸縮調節器 カラビナ リング類 |
錆の有無 | 全体に錆が発生しているもの |
変形の有無 | 目視で判断できる変形があるもの | |
傷の有無 | 深さ1㎜以上の傷があるもの。 微細な亀裂があるもの |
|
リベットの摩滅や ガタツキ |
・リベットの頭部やカシメ部が摩滅しているもの (1/2程度) ・リベットにガタツキがあるもの |
|
スライド (垂直親綱用グリップ) |
垂直親綱への 取付の良否 |
ばねの損傷等により垂直親綱に取り付けできないもの |
変形・損傷の有無 | ・作動が不完全なもの(安全装置・ロック装置が完全に閉まらないもの) ・目視で判断できる変形があるもの |
|
傷の有無 | 深さ1㎜以上の傷があるもの。 微細な亀裂があるもの |
|
停止機能の確認 | ・フックを持ち上げて、自由落下させ、停止するまでの距離が30㎝以上になったもの。 ・フックを下方へ引いた時、停止しないもの |
(「墜落防止のための安全設備設置の作業標準マニュアル」より抜粋)
3.その他の取り付け設備(親綱支柱・H鋼用クランプなど)について、以下のものは使用しない
・落下衝撃を受けたもの
・著しい変形、又は腐食等の損傷のあるもの
・締め付けボルトに損傷、又は付着物のあるもの
・ロープやベルト、ストラップ部分に損傷のあるもの(前掲の表参照)
・その他、目視で明らかに機能に影響を及ぼす劣化・損傷が認められるもの
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