【第1章】第2節 労働災害の仕組みと発生した場合の対応 1
第2節 労働災害の仕組みと発生した場合の対応①
(1)労働災害に伴う四大責任
労働災害が発生した場合、事業者が背負う責任として、一般的に、刑事責任、民事責任、行政責任、社会的責任のいわゆる労働災害に伴う「四大責任」といわれるものがあります。これが広義の事業者責任といわれるものです。
刑事責任
刑事責任とは、罰則規定を有する法律に違反する行為に対して、刑罰をもって制裁することによりその責任を問うものですが、労働災害に対する刑事責任には以下の二種類があります。
- 労働安全衛生法違反
労働災害が発生したときには、労働安全衛生法の措置義務違反がないかどうかを労働基準監督署の職員が調査し、違反の疑いがある場合には労働基準監督官が特別司法警察職員として捜査を行います。
- 刑法犯罪(業務上過失致死傷罪等)
主に重篤な労働災害の発生に伴い、業務上過失致死傷罪など刑法に定める犯罪行為の疑いがある場合には、警察により捜査が行われます。
行政責任
行政機関(国の機関又は地方公共団体)は、その目的を達成するために、企業に対して行政処分、行政指導等を行うことができるとされています。国土交通省(国土交通大臣、都道府県知事)は建設業法を根拠として、建設業者に対して指示処分、営業の停止処分、許可の取消し又は指導、助言、勧告ができます。 また、厚生労働省(地方労働局、労働基準監督署)は、企業に対して指定店社の指名、使用停止、是正勧告等を行うことができます。
民事責任
労働災害によって被災した労働者への補償としては労災保険によるものがありますが、場合によっては事業者等に対して被災者やその家族などから民事上の損害賠償請求訴訟が起こされることもあります。損害賠償請求の根拠としては主に不法行為責任(民法第709条)と債務不履行(民法第415条)によるものがありますが、近年は債務不履行として「安全配慮義務違反」を根拠とした訴えが多くなっています。安全配慮義務に関しては平成20(2008)年に施行された労働契約法第5条においても「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明文化されています。
社会的責任
かつては社会一般に労働災害は被災者自身の過失であると考えられた時期もありましたが、現在では労働災害そのものが悪であると考えられるようになりました。労働災害を世の中が受け入れないという社会的変容に伴って、益々企業の責任も問われるようになりました。
労働災害を対象とした社会的責任としては、取引先や顧客との関係における責任や、地域社会に対する雇用の創出先としての責任などが挙げられますが、環境や品質などを含めより広範な意味で安全で安心な企業であることがますます求められています。
(2)職長・安全衛生責任者の労働安全衛生法違反
現場における指揮命令権を委譲されている職長は、実行行為者として安衛法違反の罪に問われることがあります。
なお、本来安衛法は労働災害防止の責務を事業者(法人又は個人事業主)に対して定めており、職長などの実行行為者が罰せられる場合は事業者である法人または人に対しても罰金刑が科せられます。(安衛法第122 条:両罰規定)
また、安全衛生責任者が安衛則第19条に示された6つの事項を守らない場合、安衛法第120条により事業者に罰金刑が科せられるおそれがあります。
労働安全衛生法第122条 両罰規定
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
刑法第211条 業務上過失致死傷等
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5 年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金に処す。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
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