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【第2章】第1節 労働者に対する指導、監督等の方法 効果的な指導方法

第1節 労働者に対する指導、監督等の方法 効果的な指導方法

職長等の役割の一つに「労働者に対する指導又は監督の方法に関すること」があります。「指導」とは、「ある目的の方向に導くこと。」とされます。ある目的の方向に導くためには、ただ闇雲に怒鳴ったり、強制的に言うことをきかせても、効果ある結果は生まれません。人を育てることは、職長にとって重要な、かつ永遠の課題です。

よく言われる「知識」「技能」「態度」教育は、必要な基礎を教えることです。

指導とは基礎を学んだ者に対して学んだ通り実践するよう導くことだけでなく、問題点や悩みを傾聴し助言をしながら部下に「十分に考えてもらう、考えながら実践をしてもらう」ことを意図しています。

まずは「指導」と「教育」を分けて考えて欲しいと思います。


「これはこのように取り付けましょう」 部下に知識や技能を教える教育

「これはどのように取り付けますか」「そうですね」 部下を育てるための指導


次に、指導者が陥りやすいこととして、「指導しなければならない」という思い入れや責任感がかえって部下との心理的な距離を隔て、正しいことを言っているはずなのに受け入れてもらえないというケースです。

指導も又教育と同じく、受ける側本位であるべきです。学ぼうという心を持たない者に教えることは出来ないのと同じように、受け入れる心構えが出来ていない者にとって、「指導」とは名ばかりの迷惑な雑音にしか聞こえないということを心得ておくべきです。特に指導能力の低い役職者ほど職階や年齢などの権威を振りかざしますが、良い結果はもたらしません。

そういった場合に相手のせいにするのは簡単なことですが、職長自身の能力を向上し仕事を円滑に進めていくうえからも、コミュニケーションに関する知識や技術を身に付けることは欠かせません。

最近の研究により、指導者にとって心得ておきたい手法として「傾聴」や「フィードバック」という方法が取り上げられています。


(1)傾聴

「積極的傾聴(Active Listening)」は、米国の心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズ(Carl Rogers)によって提唱されました。ロジャーズは、自らがカウンセリングを行った多くの事例を分析し、カウンセリングが有効であった事例に共通していた聴く側の3要素として、「共感的理解」、「無条件の肯定的関心」、「自己一致」をあげ、これらの人間尊重の態度に基づくカウンセリングを提唱しました。

1.共感的理解 (empathy, empathic understanding)

相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。


2.無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)

相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。其のことによって、話し手は安心して話ができる。


3.自己一致 (congruence)

聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。

具体的に言えば、「共感的理解」に基づく傾聴とは、聴き手が相手の話を聴くときに、相手の立場になって相手の気持ちに共感しながら聴くことです。「無条件の肯定的関心」を持った傾聴とは、相手の話の内容が、たとえ反社会的な内容であっても、初めから否定することなく、なぜそのようなことを考えるようになったのか関心を持って聴くことです。「自己一致」に基づく傾聴とは、聴く側も自分の気持ちを大切にし、もし相手の話の内容にわからないところがあれば、そのままにせず聴きなおして内容を確かめ、相手に対しても自分に対しても真摯な態度で聴くことです。

(厚生労働省「こころの耳」より引用)


(2)フィードバック

フィードバックとは、「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直す」部下指導の技術のこと。コーチングとティーチングのノウハウを両方含んだ、まったく新しい部下育成法です。

1)たとえ耳の痛い情報であったとしても、ポジティブなことであったとしても、

2)自分自身の成長のために

3)自分の行動や考え方が、他者からどのように見えているかを

4)他者から客観的に指摘してもらうことであり

5)それによって、自分の行動や考え方を補正していくこと


いつだって、フィードバックとは

相手の成長を信じて

自分に見えているものを

あるがまま、そのままかえすだけです。

敢えて足さない

敢えて引かない

ちょっと盛らない(笑)

手加減しない

(立教大学 中原 淳教授「Nakahara-Lab」より引用)

(3)ホールパート法(伝達力の向上にも)

ホールとは、「全体」のことで、パートは「部分」です。この方法は、最初に「全体」を説明し、次に「ポイント3つ」にまとめて説明し、最後に、「全体をまとめて」話をする方法です。


ホールパート法

まずは結論⇒具体的な各論を3つで説明⇒結論と共感


ホールパート法を使い、全体→詳細のように話を順序立てて話すことで説明する職長の負担を減らすことができます。そうすることで、部下は職長が話していることを理解しやすくなります。

(4)一般的な指導教育の8原則

1. 相手の立場に立って

部下の能力に応じた教育内容であることを心がけ、自分にとっては常識的な事柄であっても、部下にとっては初めて知ることであることを忘れない。また部下の理解する能力を超えることのないよう注意を払わなければなりません。

2. 動機付けを大切に

自分のやり方や考えを、あまり押し付けることなく、時には部下に考えさせ、実行させるなど、部下のやる気(意欲)を起こさせる。自らの考えを実行するとき人は生き生きと取り組むことを知っておかねばなりません。

3. やさしいことから、難しいことへ

部下が、どれだけ理解をしたかを質問し確認しながら、徐々に教える内容を上げて行くように。分かりやすくを意識して下さい。

4. 一時に一事を

何を教えるかを前もって考え、一回に一つのことを教えていくと、部下は理解が容易になり、また的確に教えることが出来ます。

5. 反復する

何度も繰り返しやってみせて、言って聞かせてやらせてみせることが大切です。

6. 印象の強化

身近な災害事例や改善事例等を引用すると、イメージしやすく強い印象を与えることになり、より効果を高めることが出来ます。

7. 五感の活用

百聞は一見に如かず、また百見は一験に如かず。実物を見せたり、実際に体験させることにより習得した技能・知識は、なかなか忘れるものではありません。

8.機能的に理解させる

何故、そこのところが急所なのかを言わないままだと、教えてもらっても納得することが出来ませんし、応用もできません。理由を説明することで正しく理解し、忘れることが少なくなります。

 

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